130杯目:国境近くで撮ってみた

130杯目>
写真は下手だが、かなり鉄分補給はできた
スイス・シャフハウゼン州/竹田聡一郎撮影
(カメラ:SONY/レンズ:TAMRON 50-400mm)

椎名またどっか行ってたのか。

竹田スイスに行ってきました。カーリングの世界選手権がシャフハウゼンという街でありまして。

椎名ふうん。寒かった?

竹田雪がチラついた日もあったんですがそこまで寒くはなく、たんぽぽの綿毛がふわふわ舞ってました。地元の人は「もう春だなー」と言ってました。椎名さんはスイスに行ったことはありますか?

椎名いや、ないと思う。スイスは幸福度が高い国でもあり、安楽死、正確には自殺幇助なんだけれど、生や死についての考えた方が興味深い国でもある。

竹田そんな深甚なる滞在はできてませんが、会う人はみんな独立しているというか、個を持っていて楽しそうでありました。気のせいかもしれませんが、なぜか柴犬に多く遭遇しました。

椎名どれくらいいたの?

竹田2週間はいなかったくらいですね。物価が高くて、円安も相まって鼻血が出そうでした。世界的なハンバーガーやサンドイッチのチェーン店でセットを買うと2000円をゆうに超えます。

椎名ひええ、でもヨーロッパはパンやチーズは安くてうまいんでないかい?

竹田そうそう。あと、ワインとビールはお手軽でした。特に「Falken」という地ビールは小瓶で200円くらい。ロング缶も250円くらいだったので、かなり救われました。毎日、閉店間際のスーパーで半額になったサンドイッチを買ってそれが夕飯兼ツマミ。日本とやっていることはあまり変わらない。

椎名ははは。でも、その過ごし方は生活リズムもできるだろうし、そこで見るもの考えたものは貴重だね。ちゃんと書いたほうがいい。

竹田日記というかログは簡単につけてたんですよ。「トマトが日本のものより甘くはなくて硬いけれど、土の味がする。いい意味で荒っぽくてうまい。ハムはうまいけれど、生でいけるやつなのか火をとおすやつなのか判断が難しい。小さな勝負を毎日している」とかくだらないけど。

椎名確かにくだらない。この写真は?

竹田シャフハウゼンの駅なんです。これについてご意見が欲しくて。

椎名なんだい?

竹田このシャフハウゼンっていう街に限ったことではないんですが、欧州っていろんなところに地続きで行けるからワクワクするじゃないですか。

椎名そうだね。

竹田特に駅はそうだと思うんです。だから旅情を掻き立てるような写真にしたくて。忌憚ないところをお聞かせください。

椎名無意味なフォーカス。

竹田どういうことですか?

椎名あちこち見えすぎるんだ。何が撮りたいか分からない写真だね。

竹田全体像が過ぎるというか、絵葉書的な写真になってしまっている、と?

椎名うーん、絵葉書的な写真はもっと総合力がある。これはためしにシャッター押しました、という写真でしかないよ。

竹田ぐおお。「忌憚ないところを」とお願いしたのは僕ではありますが、こんなに酷評されるとは。このタムロンのレンズフォーカスがバシっとハマるんですよ。可愛い犬とか、車内の様子とか、いろいろ狙ったフシはあります。

椎名乱暴な言い方になるけれど、写真なんて正解もないし、意図が確実に伝わるわけでもない。もっと大雑把に構えていいかもしれない。見る人が勝手に解釈してくれればそれでいいんだ。

竹田ふんふん。

椎名あんまり欲張るとうまくいかないことが多いよ。

竹田勉強になります。撮るのは面白いので、もっと修行します。椎名さん、最近は撮ってますか?

椎名デジタル写真がイヤで撮る機会は減ったけれど、写真賞の審査員なんかやると「やっぱり写真は面白いなあ」と感じるよ。

竹田そうか、椎名さんはフィルムのほうが好きなんですね。僕はライターとしてフリーになる前、講談社から出ていた「TOKYO★1週間」という情報誌の編集部でアルバイトしてたんですけれど。

椎名ふうん。いつ頃?

竹田2003年くらいですね。その頃はまだ、多くのカメラマンがフィルムで撮影していて、撮影後に使用するカットを連続したフィルムから切り離す“ポジ切り”という作業をやってました。

椎名ポジフィルム時代か。懐かしい。同じ講談社でいえば「週刊現代」のわが連載はフィルムで撮ってたんだ。

竹田にっぽん・海風魚旅 怪し火さすらい編』にはじまるシリーズですね。

椎名そうそう。フィルムだけでもけっこうな荷物になるんだ。

竹田昔は空港で「中にフィルムがあります」と申請してX線検査を避けたりしてましたもんね。

椎名懐かしいね。いま考えると「面倒だなあ」で終わっちゃうだろうけれど、買ったり運んだりした限られた数のフィルムで撮って現像に出す。カメラマンはその手間が大変だったけれど、そのぶん写真というものに今とは違う価値があった時代でもあった。

竹田スマホの繁栄は別に悪いことじゃないけれど、お手軽すぎますよね。時代といえばそれまでなんでしょうけれど。

椎名どんどん世の中は変わっているなあ。

椎名誠:酒飲み旅作家。三月場所が面白かったからまた相撲熱が増してきた。五月場所は伯桜鵬に期待したい。

竹田聡一郎:ビール偏愛フリーライター。なんで桜の花びらが缶ビールにプリントされていると買ってしまうんだろう。

<<<129杯目    131杯目>>>

旅する文学館 ホームへ