122杯目:無駄合宿の真実

122杯目

伊良部島の佐良浜港にて
沖縄県宮古島市/椎名誠撮影(ニコンDf)

竹田えー、前回に続き、無意味無目的宮古島合宿の話です。オリオンが冷蔵庫にびっちり冷えている光景は神々しかった。

椎名卑しい君がいつも酒の話ばかりするから、そこに意義がなくなるんじゃないか?

竹田えー、僕のせいですか? そしたら椎名さん、意義でも意味でも持たせるようなことを見出してくださいよ。隊長なんだから。

椎名つまり研修なんだよ。

竹田ほお。辞書をひくとですね、「学問や芸などを磨き修めること。職業上必要な知識や技能を高めるための一定期間の教育や講習」だそうです。

椎名ほらな。

竹田椎名さんの「ほらな」ってだいたい意味がわからんのです。

椎名みんなで料理して技術を磨いただろう。

竹田メシは料理長のザコさんに任せっきりでした。

椎名釣りの技能を高めた。

竹田前回も説明しましたが、わざわざ出船してグルクンとオジサンがメインでした。

椎名おじさんがオジサン釣ってどうする。

竹田そのギャグ、聞き飽きました。

椎名とにかく研究と検証なんだ。

竹田だから何をですか?

椎名文化や生活、風俗や歴史を視察したというわけだ。

竹田一棟貸しの大きな宿に居座って、食って飲んで寝ての繰り返し。椎名さんは気持ちよさそうに昼寝までしてました。海すらロクに見てない生活でしたぜ。

椎名買い物はどうだ! 現地のスーパーの品揃えで島の生活や課題が見えてくる。

竹田あー、それは勉強になりましたし、楽しかったですね。

椎名白なすとかフーチバー(よもぎ)なんて美味しかったじゃないか。

竹田我々はJAおきなわ直営「あたらす市場」で毎日、買い物をしていたんですが、ちょうど島らっきょうのシーズンがはじまって、あとはどっさりパクチーが安かったり、トマトがとっても甘かったり、ゆし豆腐も生産者ごとに個性があったりと、島の食生活に触れることができた。

椎名やっぱり合宿なんだよ。ひとつ屋根の下で同じ釜の飯を食べて、夜は杯と論を交わす。

竹田杯と論ですか。どちらかといえば牌とロンでした。

椎名うまいこというね。

竹田論のほうはですね、忠実に再現しますと「あ、てめえ、その海ぶどう俺のだぞ」「お前、豚の味噌漬けをもう6枚食べただろう」「誰だ冷凍庫にオリオン冷やしたのカチコチじゃねえか」「柿ピーをなんで買っておかなかったんだ」という知性のカケラもない会話が多かったですね。

椎名この前、ある編集者に「椎名さんがなぜ合宿をし続けるのか考えてみたんです」と言われたんだよ。

竹田おお。編集者というのは忙しいはずなんですが……痛い!

椎名その人は「情景なのか原風景なのか、やっぱり『克美荘』の生活が楽しかった、かどうかは分かりませんが、その後の椎名さんの人生に大きな影響を与えたのかもしれません」と。

竹田確かに鋭い意見ですね。『哀愁の町に霧が降るのだ』(情報センター出版局)は当然ながら、その後の映画撮影の椎名組もずっと合宿しているようなもんでしょうし。

椎名まさにそうなんだよ。しばらく考え込んでしまった。だからさっきの「柿ピーねえぞ」みたいなくだらない会話を聞くと少し落ち着くのかもしれない。時代は違えど、そんな会話ばかりしていたから。

竹田懐かしむ気持ちは理解できるんですけれど、ではいま克美荘暮らしをまたしたいのかといえば……。

椎名うーん、まあ、今なら2~3泊ってトコですなあ。

竹田そんなもんですか。「哀愁の町にー」を読んでいるぶんには楽しそうですけれど。

椎名じゃあすぐ来週に「礼文島で15人、3泊4日の自炊合宿やるぞ」と言われたらどう思う?

竹田絶対に嫌です。西澤さんはうるさいし、太陽さんは酔うと最近、張り手をしてくるんですよ。

椎名たまにやる合宿がいちばん。

竹田なるほど。確かに楽しい時間ではあるけれど、合宿が終わると開放感もありますからね。

椎名そう。しばらくみんなには会わなくてもいい。

竹田んなこと言っても、椎名さんだって宮古島から帰って翌日には池林房行ってるじゃないすか。

椎名なんでバレてるんだ。あ、そうそう、そこで居合わせた人が勘違いをしていて。過去にも同じようなコトを言われたんだ。

竹田なんだろう。ではそれは次回にしましょう。

椎名誠:バカ旅酒飲み作家。冬期は鬱が待っているので宮古島にニゲル。オリオンビールと菊之露とゆし豆腐。

竹田聡一郎:フリーランスの麦酒ライター。北海道取材でしばれた身体をあたためるためシーナを追って宮古島へ。

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