118杯目:ひょんなことから言葉の旅へ

118杯目

韓国語でアバラを意味する「カルビ」
東京都新宿区/竹田聡一郎撮影
(“チェキ” instax mini 8)

竹田先日、ひょんなことから……。

椎名ひょんって何?

竹田え、なんすか? 語源ってことですか?

椎名そうそう。

竹田えっと、調べます。「凶」を中国語で「ひょん」と発音するらしく、それが有力です。あとは温暖な土地に自生する「イスノキ」を別名で「ヒョンノキ」と呼ぶそうです。イスノキにできる虫こぶに唇をあてて吹くと「ひょう」と鳴るらしく、それが語源という説も。東北では大木に寄生して育つ「ヤドリギ」という潅木が「ひょう」や「ほよ」とも言われるそうで、それが訛ったとされています。いずれにしても奇妙なこと、不思議なことが発端なんですね。

椎名なるほど。どちらかといえば、いいことより悪いニュアンスなのかもしれない。

竹田似た言葉では「たまたま」がありますが、あれは「たまさか」偶と適、と言われていますね。

椎名お、タケダ、インテリじゃないか。正しくは「インテリゲンチャ」か。

竹田「インテリジェンス」の原型ですねえ、ロシア語。

椎名ロシア語は面白いよね。イクラとかノルマとか日本語として使える言葉も多い。

竹田カチューシャやテトリスなんかも。

椎名ああ、そうかー。いろいろ問題はあるけれどやっぱり隣国なんだねえ。

竹田クランケやカルテなど、医療用語はドイツ語由来が多いですし、食べ物や料理に関しては美食の国・フランス語が目立ちます。

椎名そうだね。

竹田椎名さんの娘の葉さんなんかは世界の言語に通じているから色々と詳しいでしょうね。

椎名たくさん勉強したんだけれど、やっぱりセンスもあるだろうし、好奇心や意欲がないと身につかないだろうなあ。

竹田センスは扇子からですな。落語で扇子を上手に使う噺家が……。

椎名嘘をつきなさい。

竹田なんでバレるんだ。でも古典や、歌舞伎、能なんかの伝統芸能からの言葉は多いですよね。十八番、屋号、見栄を切るなんてそのまま市井で使われています。

椎名相撲も多いかもね。

竹田横綱なんて土俵の外でも比喩として使われますもんね。あとは小兵とか花道とか。椎名さんも麻雀で「待った」をよくかけて……あっ、痛い! かわいがりはやめてください。

椎名そういや、正月にトクヤと卓を囲んで負かしたようだな。

竹田ふふふ。でもあの人、不撓不屈なのでほとぼりが冷めた頃に「また麻雀やろうよ」と言ってくるはずです。

椎名ほとぼりは元々は「火通り」という江戸の言葉だったんだ。

竹田ダウト!

椎名残念ながら真実なんだ。当時は「ほとおり」と読んだらしい。火だけではなく人々の興奮など、熱が冷めずに残っている様子という、現代とほぼ同じ意味のようだ。

竹田祭りとかでも使いそうだし、江戸の花と呼ばれた火事の後でも使ったんですかね。

椎名そういう説もあったのかもなあ。

竹田江戸時代で言えば「ネコババ」は猫がばば(糞)をして、それを隠す。転じて「悪いことをして知らん顔をする」というニュアンスのようです。

椎名……うーむ。

竹田どうしたんですか?

椎名嘘っぽいんだよ。

竹田これは本当です。

椎名どうして、猫の糞が盗みになるわけ?

竹田盗みというより、用を足した砂をかけて簡易的に隠すだけで立ち去る、という行儀の悪さとその態度のことですね。

椎名だったら「ネコスナ」でいい。

竹田知りませんよ。猫に聞いてください。

椎名ところで、ひょんなことからどうしたの?

竹田なんだっけ。ほとぼりが冷めちゃいました。椎名さんのせいです。

椎名誠:酒飲み作家。新年の抱負? そんなものを語ったことはない。いつもどおり原稿を書いて酒を飲む。

竹田聡一郎:麦酒ライター。そろそろ真面目に痩せようと思う。松が取れたら。いや、桜が咲いたら。いや梅雨が……。

<<<117杯目    119杯目>>>

旅する文学館 ホームへ