117杯目:オラたちは死んじまうだー

117杯目

自然はでっかく優しく厳しい
1984年シベリアにて/椎名誠撮影(ニコンF3)

竹田昨年は何度か椎名さんの講演を聞いたり参加させてもらったのですが、興味深い話題があったんです。

椎名なんでしょうか。

竹田死期や寿命という概念を持っている動物は人間のみ、という話です。

椎名あー、したかもしれない。でも、自然科学の専門家や動物学者の間では議論は割と盛んなんじゃないかな。

竹田そうなんですね。ペットや動物園などの動物はまた諸説あるのでここでは除外しますが、そもそも天寿をまっとうできる野生動物なんていないのでは、という意見にもうなずけます。

椎名トラやライオンなんかは天敵がいないと言われているけれど、何かで病気になったりしたら他の肉食動物に食われるかもしれないし、「寿命」という言葉自体が当てはまらないんじゃないかな。

竹田登山家の服部文祥さんも「山の中では不思議なほど動物の死骸を見かけない」と。そして「山に還る」といった主旨の発言をされていたのを聞いたことがあります。もちろん実際は、清掃動物と呼ばれる生き物が処理したり、虫やバクテリアが分解したりと様々なんですけれど、考え方としてはすごく自然ですよね。

椎名鳥葬も考え方が似ているかもしれないね。身体をハゲワシに布施として分け与える。

竹田ふんふん。そのあたりについては僕は『チベットを馬で行く』(文春文庫)で勉強しました。一枝さんも独自の世界を持っている冒険家ですよねー。

椎名あの人のエネルギーは本当にすさまじい。

竹田動物の死期に話を戻しますが、群れや仲間を作って生きる動物は仲間の死期を感じたりする、という説もあるとか。

椎名そうみたいだね。特に象や猿などは仲間意識も強いみたいだ。仲間が死んで悲しむような行動が多数確認されている。

竹田鳴くじゃなくて、泣くこともあるようで。

椎名専門家が研究しているんだろうけれど、個人的には全容は解明しなくていいような気もしている。

竹田どうしてですか?

椎名ぜんぶ分かっちゃうとつまんない。余白があったほうがいい。キツネは満月で跳ねたっていいし、鶴が恩返しする日が来るかもしれない。

竹田椎名さんって意外とロマンチストですよね。

椎名そんなこと初めて言われた。

竹田出版的に言い換えると作家と編集者の狭間にいるというか。物語を自由につむぐ作家であり、事実に即した部分を追う編集者でもある。そのバランスが無意識下であるんですかね。

椎名よく分からないが褒められているようなので、まあいいか。

竹田ところで、この写真は1984年のシベリアということですから、小学館の『シベリア追跡』ですかね。のちに集英社文庫になっています。

椎名もう1冊出したんだよ。そのどっちか。

竹田あー、じゃあ『シベリア夢幻』(情報センター出版局)ですかね。こちらは『零下59度の旅』と改題して、こちらも集英社文庫に収録されています。

椎名いろいろなことがあったけれど、とにかく一貫して寒かった。

竹田でしょうね。でも、作中に出てくる「世界一寒い街」と呼ばれるロシア東北の山間のベルホヤンスクで2020年の6月、38度が記録されたそうです。

椎名ええ、本当に?

竹田シベリアの観測史上最高気温ですって。

椎名凍土は大丈夫なの?

竹田それは懸念されていますね。氷の融解による地盤への影響は小さくないという記事を読みました。それこそ今回、話題にした生態系はどうなるんだろう。

椎名うーむ。

竹田温暖化をはじめとした、地球どうこうはまた改めて扱いましょう。

椎名誠:酒飲み作家。新年の抱負? そんなものを語ったことはない。いつもどおり原稿を書いて酒を飲む。

竹田聡一郎:麦酒ライター。そろそろ真面目に痩せようと思う。松が取れたら。いや、桜が咲いたら。いや梅雨が……。

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