116杯目:地名のユーワク

116杯目

今年はいろんな場所の雪や雲や水や酒が呼んでいる、気がする
栃木県那須塩原市/竹田聡一郎撮影
(“チェキ” instax mini 8)

竹田東京スポーツの連載コラム「風雲ねじれ旅」が新日本出版で単行本になった『旅の窓からでっかい空をながめる』が、年末にKADOKAWAから文庫になったんですね。

椎名うん、そうなんだ。

竹田これはですね、あぶねえですよ。

椎名危ない?

竹田トラベルコとかスカイスキャナーとかエアトリとか開いてしまう。

椎名言ってることがまったく分からない。

竹田失礼しました。予約代行サイトです。地名と日程さえ決まっていれば、航空各社の値段やスケジュールが検索できるんです。どこかに行きたくなる、ってことです。

椎名便利だね。パタゴニアとかパプアニューギニアとか遠いところもできるの?

竹田だいたいのところは。では、例えば4月10日から3週間の日程でパタゴニアに行ってみましょう。

椎名いいではないか。

竹田最寄りの空港どこですっけ?

椎名ルートはいくつかあるけれど、プンタ・アレーナスだね。

竹田おお、日本からもっとも遠いと言われている空港、プレジデンテ・カルロス・イバニェス・デル・カンポ大統領国際空港ですね。

椎名そんな名前だっけ。プンタ・アレーナスは世界の端っこでありながら、旅してきた中でもっとも好きな街かもしれない。

竹田そうなのかあ。えーとですね、まずは羽田からロスに移動して、ロスで乗り換えが2時間半。

椎名そんな詳細も出るのか。

竹田ラタム航空に乗ってサンティアゴまで13時間。そこでまた4時間の乗り換えを経て、3時間かけてプンタ・アレーナスへ。合計34時間です。

椎名遠いなあ。でも、懐かしい地名だなあ。

竹田でもこれ、意外と安いっす。24万円。

椎名えっ!? 行ってくれば?

竹田うーむ、ううむ。うーん。

椎名ラムチョップで赤ワインをやるんだ。

竹田いいなあ。最高だなあ。

椎名ピスコやウニなんかびっくりするほど安いんだ。

竹田決済ボタンをクリックしてしまいそうだ。話を進めますが、まさに「地名」です。この『旅の窓からでっかい空をながめる』を読んで、地名と写真がセットで旅情や漂流の感情をビシビシ刺してくるんですよ。

椎名なるほど。

竹田カイラス、バフィン島、ポカ村、ジョカン寺、パラマ川、ネオ・シャブリノ、答志島etc……。

椎名我ながらよくあっちこっち行ったもんだ。

竹田椎名さんは「文庫のためのあとがき」で、時間の経過について書いてます。

椎名そうだね。もう見られない景色や風景は増えてしまったかもしれない。

竹田そういう意味ではエッセイであり、資料としての価値も出るのかなと思います。例えば「ミャンマーのタナカ!」という項は、読む前には「田中さんという日系人と会ったのかな」とか「トラクターの名前かな」程度しか予想はつかないけれど、かなり面白い風習文化ですもんね。

椎名女の子たちがみんな楽しそうでもあり、誇らしそうでもあって、撮ってて幸せになるような取材だった。

竹田SNSが大きな情報源になってしまった現代は便利ではあるかもしれないけれど、情報がすごく表層的だと思うんです。

椎名ふんふん。

竹田だから「泳ぐ犬」とか「マーモット狩りの少女」とかキャッチーでありながらも、内容あるコラムを読むと心地が良い。

椎名いいこと言うじゃないか。ビールを……なんだ、もう飲んでるじゃないか。

竹田3本目もらっていいすか?

椎名好きにしなさい。

竹田だから、仮にどこか旅ができるとしても、この本に載っている椎名さんの旅をトレースするようなことはしたくなくて、自分の旅の途中でしか見られない景色があるといいな、と思います。

椎名うん、誰かが行ったところなんてつまらないよ。

竹田椎名さんが「文庫のためのあとがき」を結んだ一文であってほしいな、と切に願ってます。

椎名頑張ってくれ。パタゴニア行かないの?

竹田ううむ。ビール4本目飲んだら考えます。

椎名誠:酒飲み作家。新年の抱負? そんなものを語ったことはない。いつもどおり原稿を書いて酒を飲む。

竹田聡一郎:麦酒ライター。そろそろ真面目に痩せようと思う。松が取れたら。いや、桜が咲いたら。いや梅雨が……。

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