107杯目:書を携え、町へ出て、ビールを飲もう
踊り子も土蜘蛛もいなかった
静岡県伊豆市/竹田聡一郎撮影
(“チェキ” instax mini 8)
竹田読書の秋です。
椎名うむ。9月も、10月ですら場合によっては暑かったので、家で本を読んでいる時間も長かった。
竹田何を読んでたんですか?
椎名『描かれた技術 科学のかたち』(橋本毅彦/東京大学出版会)なんてのを読んでたな。あとは、絵本『注文の多い料理店』(スズキコージ/ミキハウス)を久しぶりにパラパラとめくってた。楽しかったなあ。君は何を読んでたの?
竹田久しぶりに海外への長距離移動があったので、話題の『パチンコ』(ミン・ジンリー/文春文庫)上下を一気に読みました。壮大かつ訴えるものが明確で、勉強になりました。
椎名君はいろんなジャンルの本を読むよね。
竹田そうですかね。でも昔はSFが苦手で、『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』(フィリップ・K・ディック/ハヤカワ文庫)などの名作ですら30歳を過ぎて初めて読みました。アンディ・ウィアーの『火星の人』(ハヤカワ文庫)もそれくらいかな。
椎名ふーん。もっと若い時は何を読んでたの?
竹田僕は高校まではサッカー小僧だったので、読書量は少なかったと思います。
椎名なんかきっかけがあったの?
竹田20歳くらいの時、高田馬場のろくでもない専門学校に通ってまして。
椎名母校をそんなふうに言うのはよくない。
竹田潰れたんです。
椎名ろくでもないな。
竹田ろくでもなく、そしてつまらなかった。僕は神奈川の奥地にある実家から小田急線で通っていて、一限は9時からなので8時過ぎには新宿に着くんです。新宿の駅ビルにはかつてブックファーストあったんですよ。
椎名そうだっけ。
竹田そうなんす。そこは朝8時から開店していて。
椎名書店の早朝営業って珍しいかもね。
竹田紀伊國屋書店新宿南店は10時開店だったんですよね。
椎名紀伊國屋は当時はふたつあったよね?
竹田ありましたね。高島屋のほう。厳密に言えば、そちらは今は洋書専門店として残っています。とにかくどちらも10時開店だったけれど、ブックファーストは8時からだった。新宿に着いて「どうせ学校行ってもつまらないしなー」と週に2、3回は寄ってました。結果的には専門学校より得るものが多かった。
椎名そこで本を買ってたの?
竹田文庫はまだ500円しないものも多かったから、貧乏学生のためにはいちばん手軽な娯楽でした。沢木耕太郎さんの『深夜特急』(新潮社文庫)も、大沢在昌さんの『新宿鮫』(光文社文庫)も、この時期に読んだんじゃないかな。シーナ作品だと『あやしい探検隊 北へ』(情報センター出版局)を読んだ記憶があります。確か角川文庫でした。
椎名独特な読書遍歴だね。
竹田文庫をジーンズのお尻のポッケに差し込んで、季節がいい時は南口の小田急サザンテラスから明治神宮を抜けて代々木公園まで歩くこともあれば、千駄ヶ谷方面から国立競技場を横目に外苑まで行くこともありました。適当なベンチとか、芝生に寝っ転がって読んでましたわ。お金がある時は缶ビール買ったりもして。
椎名いいではないか。
竹田椎名さんはどんな読書遍歴だったのですか? スヴェン・ヘディンの『さまよえる湖』に出会ったのはいくつくらいの頃ですか?
椎名あれは少年の頃だよ。(ジュール・)ヴェルヌの『十五少年漂流記』もそう。10代は私小説系の純文学のほうが多かったと思う。10代も後半になると大江健三郎を読んだ。友達と文学論を交わすのはその時から好きだった。
竹田今でも誰かと文学論を交わすことはありますか?
椎名目黒がいないのは悲しいなあ。でも、編集者や取材に来た記者が純文学が好きだったりすると、仕事や取材そっちのけで「まあビールでも飲みながらやろうよ」と文学の話をする時はある。あれは楽しい時間だ。
竹田酒場でいえば、僕は酒場に一人で入って読書するのが好きなんですけど、あれってマナー違反ですかね?
椎名店の業態にもよるけれどいいんじゃないの。でも酒場はうるさいだろ。
竹田なるべく静かな店で、ですけどね。店の人に話しかけられるのもあんまり好きじゃないので自衛策にもなるんですよね。
椎名ゲラを読むことはあるな。大きなテーブルがあればいい。
竹田だったら、池林房より犀門ですね。確かにゲラ読みながらの黒ビールはなぜかうまい。
椎名黒ビールはいつでもうまい。
竹田久しぶりに犀門行きたいな。最近、あそこの生ビールは「SORACHI 1984」なんです。
椎名どこのビール?
竹田サッポロです。なんでも「ソラチエース」というホップだけを……。
椎名能書きはいい。うまいの?
竹田いらちだなあ。ご自身で確かめてください。行きましょう。
椎名仕方ないな。ゲラ持って行こう。
椎名誠:旅する酒飲み作家。秋だが松茸などには興味はない。銀杏は好きだ。焼酎のお湯割がいい。
竹田聡一郎:旅するフリーライター。久しぶりに北米に行ったが時差ボケが昔より辛くてちょっとショックだ。
