106杯目:すずめぴょんぴょん

106杯目

東京でも食えるのだが、やっぱりこっちのほうがうまい
岩手県盛岡市/椎名誠撮影(ニコンDf)

椎名ぴょんぴょん舎はうまかった。

竹田本当に冷麺、好きですねえ。

椎名文句あんのか。

竹田いや、文句ってほどでもなく提言です。

椎名言ってみなさい。

竹田最近、椎名さんとの旅は割と東北に縁があって、おそらくここ3年で盛岡には5回くらい行ってるんですよ。そして必ず毎回「ぴょんぴょん舎」で冷麺を食べるんです。別辛大盛り。

椎名何が悪いの?

竹田いや、悪いというわけでは。僕も冷麺は好きですし、ぴょんぴょん舎はサンチュが食べ放題なので大好きな店です。でも、冷麺タウン盛岡には、高橋政彦さんに連れてってもらった「髭」や、ぴょんぴょん舎と双璧をなす名店「盛楼閣」、老舗の「大同苑」や、リニューアルした「肉の米内」など、気になる、あるいは再訪したい店がたくさんあるんですよ。

椎名行けばいいじゃないの。

竹田うっすらと椎名さんには提案しているんです。先日も、土曜日にぴょんぴょん舎に行ったから「明日はたまには盛楼閣にしましょうか」って言うと椎名さんは「それもいいね」と言うんです。

椎名別に他の店に行くのは嫌ではないのだよ。

竹田でも、今回も日曜の朝に「冷麺食って帰りましょうか。盛楼閣に並んでおきます」と電話したら「いや、まあ、今日はぴょんぴょん舎でもいいんじゃないの」とおっしゃったんです。

椎名だって、美味しいじゃない。何が悪いんだ!

竹田いやだから、あくまで提言です。さて、ここで問題です。椎名さんの愛するぴょんぴょん舎、店名の由来はなんでしょう。

椎名昔から岩手は豊かな土地だったから、駅の近くに多くの野うさぎがいたんだ。ちょうど今の店舗があるあたりに巣があってね。

竹田よくもまあ、ノータイムで嘘を流暢に喋れますね。さすが作家。むしろ感心しました。

椎名なんだっていうんだ。

竹田創業者の邉龍雄さんの苗字を韓国語で「ぴょん」と読むそうなのです。

椎名ふーん。すぐ覚えられるし口に出したくなるいい名前だよね。

竹田ちなみに「誠」は「ちゃむ」と読むので、椎名さんが冷麺屋をはじめたら「チャムチャム屋」ですね。

椎名うまそうじゃないか。ああ、また食いたくなってきたよ。

竹田そういや、麺つながりで言えば、椎名さんが前に薦めてくれた広島の「すずめ」に行ってきたんです。うまかった。

椎名あれ? 閉店したんじゃなかったっけ?

竹田よくご存知で。確かに2015年に惜しまれながら閉店したのですが、待望され復活を果たしていたんです。

椎名おお、それは嬉しいニュースだ。「めじろ」とか「つばめ」とか小鳥系の店がいろいろあって楽しいんだ。

竹田なんか親戚とかのれん分けとか、いろんな歴史があって興味深いですよね、広島ラーメン。どの店も近い味なんですか?

椎名全部を食べたわけではないんだけれど、似た味ではあった。醤油と鶏ガラがベースの懐かしさのある風味。豚骨も存在感がある。

竹田そうそう。そのへんは西のスープですね。替え玉もできたし。

椎名猛烈に食いたい、というより久しぶりに食べて「そうそう、この味だー」とじんわりうまい麺だ。

竹田麺は尊いものです。今年はこの「すずめ」もそうですし、椎名さんが愛する酒田市の「満月」も行ったし、札幌ラーメンも食べたし沖縄そばもすすりました。いい1年だった。

椎名君のフットワークは軽いねえ。

竹田それだけが取り柄です。どこでも行きまっせ。最近、気になっている麺を教えてください。

椎名大西洋北側のスタンボリス海峡のペペロチバーグという街にイソギンチャクとヤドカリで出汁をとったラーメン屋があるんだ。そこへ行ってきてくれないか。

竹田承知しました。明日、発ちます。

椎名本当に行きそうで怖い。

椎名誠:旅する酒飲み作家。10月は大相撲がなくて退屈なのでワインを飲もうと思う。たまには白ワインもいい。

竹田聡一郎:旅するフリーライター。カープファン。いいシーズンだったので広島の地酒「神雷」を飲む。

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