99杯目:シーナ動物園の秘密
お前はどこから来たんだ?
東京都渋谷区/椎名誠撮影(ニコンDf)
竹田新刊『机の上の動物園』(産業編集センター)を読みましたー。
椎名お、ありがとう。
竹田概要としては、同社のwebサイトから引用すると「何の役にも立たないが、なぜか気になって手放せない愛しきガラクタたちを、旅のエピソードとともに紹介」とあり、「モノ雑文集」とも位置付けています。
椎名うん、モノ雑文集っていい言葉だよ。偶然というか、とんとん拍子にできあがった本だけれど、愛着があるんだ。
竹田ちゃんとカラーで見せてくれて、装丁もシンプルで見やすいです。子どもとか若い子に読んでもらって、ガラクタをいろんなところで拾ってきてほしい。
椎名我ながらヘンなもの持って帰ってくるんだな、と感心した。
竹田今回は収録されていないけれど、『岳物語』(集英社)のチャンピオンベルトなんかは、息子さんへのお土産でした。そういう家族への思いみたいなものはあったんでしょうか?
椎名どうだろうなあ。中にはあったかもしれないけれど、石ころがお土産ってあんまりな気もする。
竹田ははは、確かに。それと、タイトルどおり、イモリ、ヘビ、ネコ、ワニ、クジラなどが出てきますが、椎名さんってけっこう動物好きですよね? 動物園もお好きですか?
椎名好きだよ。遊園地とか水族館とか美術館とかなら、いちばん動物園が好きだ。
竹田へー、そうなんですね。でも例えば、堤防で釣りしている時にネコが寄ってきても撫でているのとか見たことないっす。
椎名アマゾンのヘビだろうと漁港の野良猫だろうと、彼らには彼らの世界があって、あんまり我々の世界と交わらなくてもいいんじゃないかという気持ちはある。
竹田なるほどー。その一方で、「動物の言語が分かったらいいなあ、なんて考えることがあるんだ」と発言していたこともありましたよね。
椎名ああ、それも本心だね。単純に面白そうじゃない。ムササビと話ができて「最近の都会は夜も明るくてすぐ見つかっちまう」「そうかあ、電線に気をつけて飛ぶんだよ」なんて具合に。
竹田ファンタジーの世界ですね。そうか。椎名さんが気まぐれに書く変な生き物のイラストは、そういう生き物への愛があるのかあ。
椎名そんな大層なものではないけれどね。
竹田逆に細かい現実的なことを聞かせてください。
椎名なんでもどうぞ。
竹田「アムチトカ島のナイフ」なんて武器そのものなので預け入れ荷物で運んだということですよね?
椎名うーん、細かいことは覚えてないけれど、昔は検査とかも雑だったんじゃないかな。
竹田そういうもんですかね。巨大な木のヘビなんて、大型手荷物として料金、取られそうなシロモノですけどね。
椎名そういうヤボを言うんじゃありません。でも、テレビの仕事で行った時なんかは周辺の人がいろいろ便宜をはかってくれた、というケースはあったかもしれない。
竹田そうですね。でも、僕は椎名さんの特に紀行のファンだったりするので、どうしても気になってしまって。序盤から「パンナムの世界一周便」が出てきたりして、「おお!」と鼻息が荒くなりました。
椎名そういうもんかー。今の若い人はパンナム自体、知らないだろうな。
竹田憧れのパン・アメリカン航空。僕も乗ったことはないです。件の世界一周は、時刻表や経由地はちょこちょこ変更していたみたいですが、西回りはアメリカを出ると、東京ー香港ーバンコクーデリーーカラチーテヘランーフランクフルトーロンドンーニューヨークという航路だったはずです。ホノルルを経由したり中国に寄ったりする便もあったと記憶しています。
椎名よく覚えているな。
竹田海外旅行なんて今や個人旅行が当たり前ですが、そのパイオニアであるエイチ・アイ・エスが設立されたのが1980年ですからね。その前は雑誌『エイビーロード』を穴があくほど読んで、海外への思いを高めていたのでした。「カラチってどこだ?」とか地図を広げたりして。
椎名なんの話だっけ?
竹田失礼。話が逸れましたね。今回の『机の上の動物園』も昨年の『シルクロード・楼蘭探検隊』も2019年の『わが天幕焚き火人生』も、この産業編集センターから出た本は1本のテーマから、椎名誠を介して読者の旅情を煽動するのが上手いなあ、と思います。
椎名よい意見ですな。
竹田まあ、単純なだけです。ということでちょっと、旅に出てきます。
椎名また行くのか。気をつけて。
竹田変な石ころあったら拾ってきますねー。
椎名いらない。
椎名誠:東京都世田谷区生まれ、幕張の海っぺり育ち。原稿を書きながらビールを飲む作家。好きな酒場は新宿「犀門」と新宿三丁目「池林房」。
竹田聡一郎:神奈川県秦野市生まれ、相模川沿いの芝生育ち。ビールを飲みながら原稿を書くライター。好きな酒場は新宿三丁目「西尾さん」と幡ヶ谷「駅」。