94杯目:大型書店は夢の娯楽だった

94杯目

シーナ書店は乱雑さが持ち味だ
東京都渋谷区/椎名誠撮影
(“チェキ” instax mini 90 ネオクラシック)

竹田最近、書店に行ってますか?

椎名それが行けてないんだ。暑いし出るのが億劫になっている。でも行けばいろいろ買うし、やっぱり楽しい場所だ。

竹田先月はちょっと移動が多くて、その最中に読む本を旅先で仕入れたんです。那覇、札幌、広島、横浜で大型書店に行きました。

椎名地方の書店は面白いもんな。

竹田そうなんです。でも、文庫を2冊買って2000円なんてことも多くなってきました。

椎名そうかあ。単純に紙が高くなっているんだろうな。

竹田NHKによると、文庫本の平均価格はこの30年で57%も上がっているそうです。

椎名原稿料は上がった?

竹田聞かないでください。確かに上がってないな。なんでだ! でも印税は価格に乗ってくるわけだから作家はそこまで痛手ではないですかね。

椎名もっと抜本的な問題として読者に負担がかかって、みんな本を読まなくなるのは怖いよ。

竹田そりゃそうですね。椎名さんはお気に入りの書店とかあるんですか?

椎名大型書店だったら八重洲ブックセンターは好きだった。好きというか便利だった。

竹田嗚呼、閉店してしまった。あれは悲しかったですね。

椎名銀座に用があることが多かった時代は、八重洲のブックセンターとか、教文館とかよく行ったなあ。

竹田おそらくその頃って椎名さんは車で動いていたはずなんです。

椎名うん、そのあたりの路上に停めてたけれど、駐車違反の取締りなんかくらったことない。

竹田今はすぐ切られるでしょうね。

椎名そうだろうなあ。この前、久しぶりに銀座に行ったけど知らない街になっていた。かろうじて教文館周辺は面影があった。

竹田丸の内や銀座だけではなく、神保町も三省堂が建て替えている間はちょっと寂しい感じですね。

椎名うん。でも新しくなるのは楽しみだよな。

竹田新宿方面はどうですか?

椎名紀伊國屋書店にはもちろん通ったけれど、最近は行ってない。

竹田あそこはレジ前に「本の雑誌」があって便利っす。

椎名前は高島屋のほうに大きいのがあったもんな。

竹田紀伊國屋書店新宿南店ですね。2016年に閉店。今はこじんまりと洋書専門店があるにはありますが。

椎名あそこも時々、行った。広くて良かった。でも、広くて良いという意味では池袋のジュンク堂がいちばんかな。

竹田そうですね。本棚も巨大で分かりやすい。

椎名資料を探す時によく行った。

竹田僕は講談社でバイトのようなことをしていた時、よくお使いで行ってました。

椎名そうか。講談社と池袋は近いもんな。でも、銀座や新宿をメインに動いていたから、実は池袋って行く機会はそこまで多くない。街にはあんまり用はないし。

竹田確かにそうですね。でも僕は池袋自体に用がないからこそ「よおし、今日はジュンク堂に行こう!」という日を作ってます。面白い本に出会えたりすると、すぐ脇のキッチンABCに駆け込んで「祝杯だぁ」とか言って、オリエンタルライスを肴にビールやってます。

椎名最高の休日じゃないか。今はみんなインターネットで本を買うんだろ?

竹田そうですね。資料などはピンポイントで買える通販サイトが便利です。

椎名便利なんだろうけれど、書店に行かないことでずいぶん面白い本に出会う機会を逸してるんだろうなと思うよ。

竹田それはあるかもしれませんね。書店に行けば自分が求めるもの、好きなもの以外にも、書店員さんからのオススメがある。売れている本がどんなものか情報を入れるのも大切ですし、何より楽しい。

椎名大型書店はいい娯楽なんだよね。

竹田そういえば去年、目黒(考二)さんに「2022年のベスト小説を教えてください」とお願いしたら、早見和真さんの『八月の母』(KADOKAWA)を挙げてくれたんです。さっそく読んだらすごい小説でした。ちゃんとお礼を言いたかった。

椎名誰かに本を薦められる、あるいは本について人と語れるっていうのは幸せなことだよ。

竹田本当にそうですね。椎名さん、お薦めの本や映画があればどんどん挙げてください。

椎名分かった。感想を頼むぞ。

椎名誠:バカ酒旅作家。79歳になった。抱負なんてない。マルエフの黒がうまい。

竹田聡一郎:旅してビールを飲み続けるフリーライター。エスコンフィールドはいいところだ。

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