92杯目:オバケモノノケ
お分かりいただけただろうか?
沖縄県那覇市/竹田聡一郎撮影
(“チェキ” instax mini 8)
竹田前回、沖縄に行ったという話をしました。
椎名この写真は那覇?
竹田そうです。ちょうど慰霊の日だったので、昼から飲むわけにもいかないなと思って散歩してたんです。あてもなく歩いていたら小さな公園に立派なガジュマルの木を見つけて。
椎名沖縄の風景だ。
竹田風の通る気持ちの良い公園だったのでしばらく涼んでいたのですが、気づくと1時間も経っていたんです。寝てたわけではないのに、ちょっと不思議な時間の進み方でした。
椎名何らかの力が働いた可能性はあるな。
竹田いわゆるスピリチュアルな?
椎名その言葉はよく分からないけれど、旅先で良くも悪くも不思議な感覚に陥ることはある。作家としてあってはいけないことだけれど、うまく説明できないんだ。とにかく「何かおかしい。いつもと違う」という自覚だけはあって、その正体は分からない。
竹田それは国内外問わずですか?
椎名どちらかといえば海外のほうがあるかもしれない。悪い例を挙げることになってしまうけれど、ポーランドのアウシュビッツ(強制収容所)や、カンボジアの虐殺博物館に行った時に、独特の気配は確かにあった。
竹田そのあたりの感覚および体験について、椎名さんは『この道をどこまでも行くんだ』(新日本出版社)や『旅先のオバケ』(集英社)、あとは『ぼくは眠れない』(新潮社)でも少し触れています。
椎名決して気持ちのいい感覚ではないけれど、歴史の重さや人類の愚行について考えさせてくれる。
竹田人間の感情が関係しているケースもあれば、自然の中に名状できない存在を感じることもありますよね?
椎名そうだね。ヨーロッパあたりでは「なんかいるだろうな」という森はたくさんあるらしい。
竹田日本には何か感じる森はないですか?
椎名なくなってきちゃったのかもしれないね。北海道や東北には森は残っているけれど、視察や開発は進んでいるし、人がいるところは緑があっても日本の場合はしょせん疎林だからね。
竹田宮崎駿先生がずっと訴えていることでもありますな。
椎名あとは無人島。
竹田なるほど。自然そのものですもんね。
椎名でも、昔から誰も住んでいない生粋の無人島よりも、かつて観光、農業や林業などの仕事があったけれど時代と共に廃れてしまった、結果的無人島のほうが何かいると思う。
竹田人の気配が残るんですかね?
椎名残滓という言葉がふさわしいのかどうかは分からないけれど、影響はあると思う。無人島には廃墟や廃屋があるけれど、そこには何もいないってことはない気がする。
竹田確かにそうですね。興味半分で行くようなところではない。まさか初期の怪しい探検隊で行ったりはしてないっすよね?
椎名ん? でも、まあ、好奇心というのは人類の発展には欠かせないものではあるからな。
竹田行ってるのか。最近は過去のことも掘り起こされて炎上したりするからなー。
椎名もう40年とか50年前のことだぜ。
竹田どこだったんですか?
椎名西日本のある島で廃墟を4-5人で探検したんだ。不気味なところでさ、いかにもなんか出そうなんだよ。そのへんに落ちてた棒切れを拾って、「大丈夫だ。なんか出たらこれで叩き殺す」とか言ってると「シーナ、オバケというのはもう死んでいるんだから叩き殺せないんだ」と冷静に指摘された。
竹田あほや。
椎名その時は何も起きなかったけどね。でも、気づかずにモノノケのテリトリーに入っちゃうこともあるんだろうな。
竹田実際にオバケとかそういうものを目撃したことはあるんですか?
椎名白装束の女性に「ワタシ綺麗?」とか聞かれたとか直接的なことはないが、鬼火や狐火らしきものは見たことあるよ。同じ世代の人はけっこうあるんじゃないかな?
竹田でもあれも、科学的に解明できるケースもあるようですね。
椎名そうみたいだけれど、そこは作家として全部を解明しなくてもいい気もする。
竹田そうですよね。SFだってお伽話だって、そのハザマで生まれ続けているわけだし。
椎名そういうことだね。だからこの写真に写っているものも特に触れずに終わろう。
竹田えっ!?
椎名誠:バカ酒旅作家。79歳になった。抱負なんてない。アサヒのマルエフの黒がうまい。
竹田聡一郎:旅してビールを飲み続けるフリーライター。エスコンフィールドはいいところだ。