90杯目:おうちシネマ

90杯目

1994年、『白い馬』を撮っていた頃
モンゴルのどこか/椎名誠撮影(ニコンF3)

竹田この前、ここ(85杯目)で映画『帰れない山』(原題:Le otto montagne)について話したじゃないですか。

椎名映画の話はいいもんだね。

竹田あれを読んで山好きの知人、旅好きの友人が鑑賞しに行き、みんな「薦めてくれてありがとう」と連絡くれました。

椎名そうなのか。そういう連絡は自分の本や仕事が褒められるより、嬉しいケースもあるよな。

竹田まさにそうで、そのうち一人とは久しぶりに飲みに行って、とても楽しく話をして酒も進み素晴らしい夜でしたが、朝はすさまじい頭痛でした。覚えてない。

椎名山に行って反省しなさい。

竹田椎名さんは最近、何してたんですか?

椎名家にいた。

竹田原稿を書いてたんですか?

椎名そうだね。夕方になったら相撲を観て晩酌しつつ、その後は適当に映画を観る。

竹田なんだか優雅ですなあ。なんの映画を?

椎名テレビをつけてやっているものを。この前は(レイモンド・)チャンドラーの『さらば愛しき女よ』を観た。DVDで買ってあるんだけどね、やっていると観ちゃう。3回目だ。

竹田近年はコロナの影響もあるのかな、名画が多く放送されている気がしますよね。僕はNHKのBSプレミアムで『アポロ13』を観ました。当たり前ですが、トム・ハンクスやケビン・ベーコンが若かった。

椎名確か『馬上の二人』もやっていたな。だらだらと観るぶんには良かった。

竹田NHKは何かと話題になる組織ではありますが、ああいうラインナップはとてもセンスいい気がします。

椎名どの組織でもしっかり仕事をする人はいるんだよな。

竹田椎名さんは昨年、ずっと土曜は「寅さん」を観てたじゃないですか。

椎名そうなんだよ。一度、シリーズを放送して終わってしまったから落ち込んでいたのだが、最近、また始まった。すごく嬉しい。この前は「忘れな草」を見た。

竹田網走でリリーに出会う回ですね。

椎名よく知ってるじゃないか。黒ビール飲みねえ。

竹田ロケ地のひとつ、卯原内の牧場のそばを通ってカーリング取材に向かってます。

椎名いいではないか。

竹田寅さんの話ばかりになってしまいそうだな。でも、観ようと思える映画がない時はどうしているんですか?

椎名ドキュメンタリーを見ることが多い。「映像の世紀」は楽しみにしている。

竹田NHK総合ですね。最近はロシアとウクライナの問題があるから、戦争に絡めた史実が多い印象です。

椎名そうかもしれない。一方で、ハリウッドの裏側を扱う回など面白くて前のめりになってしまった。

竹田椎名さんは映画監督でもありますが、ノンフィクションやドキュメンタリーを撮りたいと思ったことはありますか?

椎名興味はあるよ、今でも。でも、ドキュメンタリーはおそらく被写体が強い力を持っていないと成立しないと思う。極端な話、人物を撮るとしたらその人の周りをずっと撮り続ければ作品の骨子が組める。だから、カメラワークや編集などの良し悪しはあるかもしれないけれど、そういう素材に出会えれば全体像は見えてくるんだ。

竹田なるほど。映画との違いは?

椎名映画はこっち、つまり撮る側に力点がないとうまくいかない。ドキュメンタリーは事実を撮り重ねていくけれど、映画はそれぞれのシーンを作るわけだから、観た人や世の中に何を伝えようとしているのか、そこに明確な意図を作らないといけない。でもそれを押し付けがましくなく、観た人が自然に感じるのが理想に近い。繊細な仕事でもあるんだ。

竹田おおお。なんか感動しました。黒ビール飲んでください。

椎名これは我が家のビールなんだがな。まあいいや。

竹田映画は面白いですよね。実は僕ら出版やメディアの人間は、作家や写真家としての椎名誠には接しているんですが、映画人としての椎名監督は知らなかったりするんです。だから沢田(康彦)先輩とかには羨望を抱いていたりもします。

椎名そうなのか。最近、映画に縁があるので、時が来たらまた話をしようじゃないか。

竹田ぜひお願いします。いやー、映画って本当に素晴らしいもんですね。

椎名それでは次週、ご期待ください。さよならさよならさよなら。

椎名誠:バカ酒旅作家。盛岡で冷麺の大盛り大辛を食った。うまかった。

竹田聡一郎:旅して飲むフリーライター。盛岡で冷麺の大盛りを豪快にすする作家にビビった。

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