88杯目:シーナさんに質問だ! ’23春夏ver.
1983年、インドでわしはたぶん考えていた
インド、ウッタル・プラデーシュ州バラナシ/椎名誠撮影(ニコンF3)
竹田今回は恒例の「シーナさんに質問だ!」です。
椎名恒例だっけ?
竹田そうです。44杯目、65杯目では多くの方の悩みを解決してきました。
椎名本当か?
竹田今回も神回確定です。
椎名すぐ「神」とか言うのはやめなさい。バカっぽいぞ。
竹田確かに。気をつけます。
椎名なんにでも神をつけるんだったら、仏はどこに行ったんだ。え!?
竹田さ、今回の質問はですね。
椎名おい、仏は!
竹田おお、まさに仏についての質問です。匿名希望の18歳の高校生から。「椎名さんの『インドでわしも考えた』(小学館)を読みました。おそらくインドは当時と状況も変わっていると思います。僕もどこかで考えたいのですが、どこに行けばいいと思いますか?」ですって。いい質問だなー。
椎名うーむ。
竹田悩んでいますな。同作は集英社文庫で読みましたが、1984年刊行ですから、40年前!
椎名インドが変わったというか世界そのもの、あるいは旅のあり方が変わってしまったからねえ。
竹田それはそうですね。航空券の取り方からして違う。
椎名この人は海外を旅して「考えたい」というか、世界を知る機会が欲しいのかな?
竹田そうなのかもしれません。自分が何に興味があるのか、どんな分野に進むのか。旅先で答えのようなものが見つかることはままありますよね。
椎名旅ってそれまで自分が出くわしたことのない場面の連続じゃないか。
竹田そうですね。
椎名だからそういう時に自分がどういう行動を取るか、何を感じるかが収穫なんだよ。
竹田なるほど。時には嫌なことや怖いこともあるけれど。
椎名そうそう。それを経験することで「ああ、自分ってこういうヤツなんだ」ってわかる。
竹田あんまり好きではない言葉ですが、いわゆる「自分探し」。
椎名無理に探すことはない。たぶん分かる。分かるまで旅をしたらいい。
竹田では、どこに?
椎名どこでもいい。
竹田答えになってないっす。
椎名だって、そんなのわからない。ただ、ガイドブックなんて持たないほうが考えられる機会は多い気がする。地名の響きとか、好きな映画の舞台とか、ぼーっと地図を見て「ここにしよう」と決めるのでもいいよ、行き先なんて。
竹田なるほど。僭越ながら僕の経験で補足させてもらうと、ひとつだけ「大谷翔平を観る」とか、「ブルガリアでヨーグルト食う」とか、なんでもいいし、くだらないことでいいから理由があるといいかもしれない。「インドでわしもー」の原点は「なぜターバンをまくのか?」というシンプルな疑問ですもんね。
椎名気をつけてほしいのは仮にひとり旅だとしても、飛行機とホテルとガイドブックを用意していると、どんな辺鄙なところへ行こうと、ただのパッケージツアーになっちゃう可能性もある。
竹田そうっすね。そのあたりの線引きは難しいし、正解もないですからね。
椎名でも「考えよう」と強く意識しなくても、旅してると勝手に考えちゃうものだよ。
竹田お、いいこと言いますね。そもそも椎名さん自身も実はインドであんまり考えてはいないんじゃな……痛い! なんでしっぺするんですか。
椎名竹田よ、思っていても口にしてはいけないことはあるんだよ。君もインドに行って少し考えてきたほうがいい。
竹田ナマステ。
椎名うむ。間違っているが。
竹田続いては……。あー、これ、僕への質問ですね。
椎名誠実に答えなさい。
竹田ピエロロさんからSNSでいただきました。「『共同生活をするぞ。だが、金は無い』と声を掛けて、何人くらい集まりそうですか?そして、来てくれる人は、どのような人たちですか?」だそうです。
椎名なんかそんな計画してたよね?
竹田その話しましたっけ? 釣りが好きな太陽さんと、フリーのプログラマーなのでどこでも仕事できる天野さん。あとは地方での取材ばかりに出ていて、荷物さえ置ければいいや、という拙者。3人で海と羽田空港にアクセスしやすい広い家に住もうという目論見です。いわば“克美荘令和版”をやりたかった。
椎名いいじゃないか。
竹田正確には太陽さんと僕の計画だったんです。天野さんは生活に干渉されるのが嫌いなので、正攻法でいくと断られると思って、まずは焼肉に誘いました。
椎名どうしてそうなるのか謎だが、相手が天野だとなんかうまくいきそうだな。
竹田川崎にうまい焼肉屋があるから行こうよと車に乗せてしまい、金沢八景の物件の内見に連行したんです。
椎名海が近くていいね。
竹田そうでしょう。しかも100平米の一軒家で、もちろんみんな個室。家賃は15万と安い。
椎名どうだったの?
竹田「嫌だよ、人と住むなんて。早く焼肉屋行こうよ」でおしまいでした。
椎名うーむ。面白そうなのになあ。
竹田だから、ピエロロさんの質問に正確に答えるなら「今のところほぼゼロ。雑魚釣り隊は期待薄。天野は肉のことしか考えていないからケツバット確定」となります。たいした結果じゃなくてごめんなさい。しかし、もうちょっと椎名さんへの質問が欲しいな。引き続き、年に2回をメドにこの「シーナさんに質問だ!」を継続していこうと思います。みなさま、ドシドシご質問ください。
椎名誠:バカ酒旅作家。盛岡で冷麺の大盛り大辛を食った。うまかった。
竹田聡一郎:旅して飲むフリーライター。盛岡で冷麺の大盛りを豪快にすする作家にビビった。