87杯目:フライパンを抱いて眠る

87杯目

ガスコンロもいいやつだ
東京都渋谷区/竹田聡一郎撮影
(“チェキ” instax mini 8)

竹田椎名さんってフライパンがお好きなんですね。

椎名新刊か。

竹田そうです。新日本出版社の「おなかがすいたハラペコだ。」シリーズ第4作『月夜にはねるフライパン』が発売になりました。まず椎名フライパン誠の足跡を辿っていきます。

椎名悪くない通り名だね。

竹田1996年に本の雑誌社から『鍋釜天幕団フライパン戦記 あやしい探検隊青春篇』が出ているんです。2007年は角川書店から『玉ねぎフライパン作戦』。そして2023年に今作と。15年から20年のスパンでフライパンものが発売されるわけです。

椎名フライパン3部作。

竹田カッコ良く言ってますが、連作というわけではないですよね。

椎名まあ、そうだね。でもフライパンって好きなんだよ。ずっしり重量感があって、ひとつあればだいたいの料理ができるし。

竹田確かに男の料理なんてフライパンで十分ですもんね。

椎名音もいい。口に出したくなる。

竹田響きは大事かもしれませんね。下北沢にその名も「フライパン」という洋食酒場があるのですが、メシも酒もうまいです。カツサンドが好きです。

椎名ほらな。

竹田別に椎名さんの店でもないのになぜ威張ってるのでしょうか。

椎名フライパンはいいやつなんだよ。

竹田そのあたりの執着と狂気は作中の「フライパンに偏愛」に書かれていますが、椎名さんはアウトドア雑誌『BE-PAL』(小学館)の創刊号にもバカデカフライパンで目玉焼きを作るというキャンプについて寄稿、むしろ奇行しています。

椎名うまいこと言うじゃないの。

竹田しかもそのフライパンをドレイに「かっぱらえ!」と指示している。

椎名フライパンの魔力だな。

竹田でも、ロシアから持ち帰った時に「これは何に使うフライパンなの?」と一枝さんに問われるくだり、一枝さんの穏やかに困惑した顔が浮かんで笑いました。

椎名フライパンにはロマンがあるんですよ。

竹田前述した「フライパンに偏愛」の舞台はおフランスですが、彼の地には「鍋を見下すのはフライパン」という諺があるそうですね。

椎名美食の国だねえ。どういう意味なの?

竹田五十歩百歩とほぼ同じですって。面白いですね。

椎名北ケニアには「魚眼レンズのフライパン」という言葉もある。

竹田本当ですか? どういう意味です?

椎名自分で調べなさい。

竹田分かりました。作中には出汁や鍋、朝飯の議論といった馴染みのある食の話題がありつつ、海外の食生活についての記述も多く、興味深く読みました。

椎名食は言語を除いたコミュニケーションで、もっともポピュラーな手段なんじゃないかな。

竹田というのは?

椎名言葉が分からない海外に行って、なんだか分からないものを食べて「けっこう美味しいね、これ。え、蛇なの? ひええ」っていう状況になるとこっちは驚くけれど、その驚く様子を現地の人が見て笑ってたり誇ってたりする。それはもうコミュニケーションが成立していると思うんだ。

竹田なるほどー。逆の立場で考えると、納豆にトライする外国人は微笑ましいですもんね。

椎名そういうことだね。

竹田蛇で思い出したんですけれど、椎名さんがどこかの講演で「蛇は市場で普通に売ってる」と話してたんですよ。

椎名そうだね。生きた蛇のほうが高いし、毒を持っているのもいい値段で売れる。

竹田どこの話ですか?

椎名どこでもあると思うけどな。中国やベトナムで見た気がする。隣にフランスパン屋があって、蛇をフライにしてパンに挟んで食べるの。けっこうおいしかったよ。

竹田ひええ。世界は広いなあ。

椎名どんどん出かけなさい。

竹田そうですね。お土産にフライパン買ってきますね。

椎名もういらない。

椎名誠:バカ酒旅作家。盛岡で冷麺の大盛り大辛を食った。うまかった。

竹田聡一郎:旅して飲むフリーライター。盛岡で冷麺の大盛りを豪快にすする作家にビビった。

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