86杯目:市場は明日もある
ビビンバの具がてんこ盛り。
7000ウォン。円安キライ。
韓国ソウル特別市鐘路区/竹田聡一郎撮影
(“チェキ” instax mini 8)
椎名お、うまそうだね。
竹田この前、仕事で江陵に行った帰りにソウルにも滞在したんですよ。
椎名なんで?
竹田まっすぐ帰れば4月30日の予定だったんですけれど、帰国便が高くて。
椎名大型連休か。
竹田そうです。ちょっと調べてみたらソウルのホテルがそれほど高くなくて。久しぶりの海外だったし、連休といっても予定は何もなかったので。
椎名何日くらい?
竹田1週間丸ごといました。
椎名何してたの?
竹田それが大したことしてないんです。進めておく原稿とか、たまっている経費精算とか企画書作成とかテープ起こしとか。
椎名なかなか地味ですな。
竹田でもすごく捗りました。携帯をずっとオフにしていたので「生ビール飲みに行こうぜ」とか「麻雀やろう。今すぐだ。原稿? そんなの明日でいいだろう」といった類いの理不尽な電話もかかってこなかった。
椎名そんな電話してくるヤツがいるのか。
竹田割と近いところにいらっしゃるんですよ。まあ、それはいいんですけれど、午前からしっかり仕事してランチは写真の広蔵市場というところでビビンバ。夕方までまた仕事。それからうまいもん食いに行く日々は地味ですが、充実して幸せでした。
椎名アジアの市場はいいよなあ。特に韓国は市場文化と生活が密接していて、羨ましい。
竹田椎名さんは『からいはうまい』(小学館)でソウルを皮切りに、安東、光州、木浦、釜山とソウルをジグザグ南下旅をしていました。目黒考二さんが絶賛してくれた『あやしい探検隊 済州島乱入』(角川書店)では自炊合宿生活を送っていて、それぞれ韓国の食文化について触れています。
椎名そこにはやっぱり市場と生活があった。済州島で行った5日おきに立つ市場は圧巻だったね。
竹田オイルジャン、五日市と呼ばれていますね。すごかったですね。
椎名あらゆるものがあって、熱気と活気に溢れていて、歩いているだけで楽しかった。かつて日本にもあんな景色がきっとあったのだろうが、画一的な巨大スーパーやショッピングモールが壊してしまった。手放してはいけないものだった気がする。
竹田ソウルの広蔵市場はそこまで生活に近くはなく、国内外からの観光市場の趣も強いですが、それでも楽しかったです。
椎名市場に通える毎日って贅沢だよ。
竹田ランチの他にも、夜にちょっと飲み足りない時は2軒目として市場に行って、適当な屋台に座ってジョンというチヂミや天ぷらのようなものを肴にマッコリやってました。
椎名なかなか粋なんでないかい。
竹田屋台の隅でちびちびやっていたら、日本からやって来たご家族がいらして。なんでもソウルに留学している娘さんに連休を使って会いにきたそうで。
椎名ほお。
竹田少し話をしたら某大新聞のカメラマンの方で、椎名さんの熱心な読者でもありました。
椎名へー。
竹田椎名さんの撮影もしたことあるんですって。
椎名なかなかの出会いだね。
竹田かつての椎名事務所で撮ったらしいのですが「時間がなかったこともあり、けっこう緊張感ある撮影でした」と笑ってらっしゃいました。あれ、言葉を選んでくれていたのでしょうが、きっと「怖かった」が本音でしょうね。
椎名根本的に撮られるのがあんまり好きじゃないんだよ。
竹田妹さんもご一緒だったんですけれど、出版社勤務の妹さんも別の機会で椎名さんにインタビューしたことがあるそうなんです。
椎名兄に撮られて、妹さんのインタビューを受けたってこと?
竹田そうですそうです。妹さんは「ビール飲みながらでしたし『なんでも聞いてください』と優しかったですよ」とのこと。「対応が違う!」とみんなで笑いました。まさかソウルで椎名さんの話をするとは。
椎名ちゃんと「彼は素晴らしい作家です」と言ったか?
竹田ありのままを話しました。
椎名まずいんじゃないの。
竹田楽しい出会いの話になってしまったけれど、本当は世界の市場について色々、聞きたかったので、後日、やらせてください。フランス、チリ、パタゴニア、中国の市場を旅する作家がどう観て、何を感じたか。
椎名思い出しておくよ。
竹田そしてそれが『埠頭三角暗闇市場』(講談社)に何か影響を与えたのか。そこまで深堀りしたいです。
椎名忙しいんだからあんまり難しいこと聞かないでくれよな。
椎名誠:バカ酒作家。自宅での黒ビールブームはしばらく続きそうだ。
竹田聡一郎:フリーランスのライター。夏に向けて自宅でカイピリーニャ。