83杯目:読むと酔う文庫
この前、数十年ぶりに小岩で飲んだ
東京都江戸川区/椎名誠撮影(ニコンDf)
竹田この「最近のシーナ」は酒の話ばかりしてる気がします。
椎名それはね、君がそのテの質問しかしないからだ。こちらとしては量子力学とかアインシュタインの特殊相対性理論の真実、ツルカメ算の本質など話したいことはいっぱいあるんだけどな。
竹田いやいや。だいわ文庫から『飲んだら、酔うたら』が出たのでさっそく拝読したのですが、酒の話ばかりじゃないですか。
椎名ありがとう。でも、あれはそういう本だからなあ。
竹田講談社の『酔うために地球はぐるぐるまわってる』の文庫化ではあるので、改めて読んだわけですが、改めて酔いそうだった。
椎名褒め言葉として受け取っておきます。
竹田下戸の人、例えば雑魚釣り隊の三嶋が読んだら面白いのだろうか。
椎名確かにその評価は分からないな。「酒を飲まない僕でも楽しめました」という書評があってもいいのだけれど。
竹田なさそうですけどね。収録されているのは80本ほどのコラムですが、オリジナルはいろいろな媒体に書いたものなので1本ごとの長短が様々です。少年の頃、初めて飲んだ苦いビール、『哀愁の町に霧が降るのだ』(情報センター出版局)での克美荘での宴会やそこで飲んだ合成酒、さらにビール泥棒のエピソードなどは私小説ともリンクしています。この旅する文学館の「思えばいっぱい書いてきた」でも椎名さんが語っていますね。
椎名未成年の飲酒とかビール泥棒とか、過去のことまでうるさく誰かが指摘する嫌な時代になったけれど、そのあたりのことは特に誰も何も言ってこない。
竹田シーナ治外法権。
椎名まあ問題にするにはあたらないコトだから。
竹田一方で、第二章の「シングルモルトウイスキーの旅」をはじめ、ドイツ、ロシア、ポルトガル、宮古島や熊本などなど、旅先での乾杯が多いので紀行でもある。このあたりは旅する酒作家の本懐ですね。
椎名やっと本質が見えてきたようだね。
竹田まえがきの「はじまりは乾杯」も、バカ飲みアル中酔いどれ破綻作家の酒呑み旅が始まる感じが嬉しいですね。
椎名もっと言ってくれ。
竹田メキシコに行く機内でスペイン語でCAさんにビールを頼むくだりがあるんですよ。
椎名ドス・セルベッサ。ビールふたつ、あるいは2本。
竹田なぜ機内でいきなり2本頼むかという根本的な疑問は置いておいて、この「2」という数字にはすごく共感します。ひとり旅してても、ビールの最初の1杯なんて来たら即、空けちゃうから最初からドスは賢いですよね。
椎名ドス必須。
竹田実は僕は近日、韓国に行くのですが、彼の地では「メクチュ・トゥル」ですね。だいたい瓶ビールですから「メクチュ・トゥビョン」。
椎名カスかハイト。
竹田それなんですが近年、韓国ではビール事情が変わったそうで。OBビール社のカス(CASS)と、ハイト眞露社のハイト(hite)が競っているのは変わらないのですが、ハイト眞露社が2019年にテラ(TERRA)という新商品を出してこれが大ヒット。「カステラ戦争」などと呼ばれ、戦線が変化しているらしいです。
椎名面白いじゃないか。飲んで来て報告するように。持って帰ってきてもいいんだよ。
竹田考えておきます。とにかくまずはトゥビョン、キメてきます。楽しみです。
椎名ついでにマッコルリも買ってくれてもいいんだよ。トゥビョン。
竹田もう使いこなしてる!
椎名ふふふ。
竹田でも椎名さんは『飲んだら、酔うたら』の「うまいサケと場所の問題」で、土地のサケをその場で消費する尊さを高らかに論じています。マッコルリなど、その代表格。空輸したら味が落ちまっせ。
椎名だからこそ、だ。私はただ飲みたいだけで言っているのではない。現地の酒を東京で飲んでどれだけ劣化するか具体的に調査しないといけないのだ。断じて意地汚くお土産をリクエストしているわけでない!
竹田胡散臭いですが、わかりましたよ。重いんだよな、酒って。
椎名サケ作家の矜持のためになんとか頼む。5本頼む。
竹田増えている。免税の範囲内で検討します。
椎名つまみに韓国海苔なんかあるといいなあ。
竹田いい加減にしなさい!
椎名誠:バカ酒作家。自宅での黒ビールブームはしばらく続きそうだ。
竹田聡一郎:フリーランスのライター。夏に向けて自宅ではカイピリーニャ。