80杯目:あなたはWUBCを知っているか?
広い海岸は絶好のグラウンドなんだ
静岡県沼津市/椎名誠撮影(ニコンDf)
竹田 球春!
椎名 君は野球が好きだよね。
竹田 神宮も横浜も広島もでっかいビアホールだと思ってますから。カープは開幕から連敗でしたが、ビールはうまかった。
椎名 野球場で飲むビールは確かにうまい。
竹田 ドーム球場はあまり好きじゃないです。この夏はエスコンフィールドに行ってきます!
椎名 どこそれ?
竹田 北海道の新球場だべさ。
椎名 元気だねえ。でも確かにWBCがあって、高校野球もやってたし、プロ野球が開幕した。寒い冬が終わったし、気分は悪くない。
竹田 おお、春のセンバツは椎名さん見てそうだなと思っていましたが、WBCもご覧になっていましたか。
椎名 全部は見てないけどね。決勝より準決勝のほうが面白かった。
竹田 大谷翔平はすごかった。
椎名 トクヤがやたらと興奮してたな。
竹田 彼は道産子ですから、ハムに縁のある選手を応援していましたね。ダルビッシュ有、伊藤大海や近藤健介、みんな素晴らしい仕事をしてくれた。
椎名 トクヤ、胡椒ひいてそうだな。
竹田 ペッパーミルですか。確かにやりそうですね。
椎名 選手がやるぶんにはいいんだけれど、ああいう競技の本質から離れた話題が日本は好きだよね。幼稚だ。
竹田 それだけを取り上げるメディアの責任もありそうですけどね。久しぶりに俺たちのWUBCを読もうかな。
椎名 何それ?
竹田 椎名さんの著作ですよ。『世界おしかけ武者修行 海浜棒球始末記 その弐』(文藝春秋)ですから、ワールドウキダマベースボールクラシック。まあ、その前の『海浜棒球始末記 ウ・リーグ熱風録』(同)から読むのが正着ですかね。
椎名 たくさん行ったなあ。面白かったなあ。
竹田 椎名さんは確かピッチャーで4番だったはずです。大谷翔平より先に二刀流だったんだ。
椎名 恥ずかしいからよしなさい。でもさ、パプアニューギニアで、最終回で4番に回ってきた時、野球ってすごいと思った。「これ、ヤラセじゃないのか?」と自分で疑ったよ。
竹田 WBCでも準決勝で不振の村上宗隆がサヨナラ打を放ったり、決勝で大谷とマイク・トラウトの対決が実現したりもありましたね。
椎名 だからあっちと比べると恥ずかしいからやめなさい。最近、そのウキダマ連中はどうしている?
竹田 オンライン飲み会や個人晩酌という自主トレでコロナ禍をしのぎ、今年は各地でゆるりと球春を迎えることができそうな気配です。
椎名 それは何よりだ。しばらく顔出してないからな。ウ・リーグも巨大な組織になっちゃって。
竹田 いいことじゃないですか。
椎名 そうだね。若い連中が引っ張ってくれるのはありがたいことだ。でも「風が強い日は四球はなしにしようぜ」とか臨機応変にルールを決めていた頃が懐かしいよ。
竹田 今はしっかりルールで決められてますからね、競技性が高まったというか。
椎名 昔、ある幹部に「ウキダマは競技性を優先するのか遊技性を重んじるのか、どっちにしますか」と迫られて、何も言えなかった記憶がある。
竹田 難しい話ですね。どっちでもいいし、どっちとも、と解釈もできる。
椎名 そういうの決めるの面倒だからね。ウキダマだけではなく、世の中はルールをひとつ決めると、そのぶん魅力がひとつ失われるのです。
竹田 お、名言っぽい。
椎名 一度、バントを解禁にしようという議題があった気がしたな。
竹田 へー。知らなかった。
椎名 でもやはり、南の島で出会った高々とふわふわと舞い上がる少しいびつなウキダマ、が原点で、それを打った捕ったするのが基本だから可決されなかったけれど、あそこでバントOKにしたらまったく違うスポーツになったんだろうな。
竹田 サードとかキャッチャーにスローイングのうまい選手をおかないといけない。
椎名 そうそう。そう考えるとまた面白い。ウ・リーガーのみんなによろしくな。
竹田 グラウンドにとは言いませんが、年末の納会くらいには顔出してくださいよ。
椎名 考えておくよ。
椎名誠:旅するバカ酒作家。春巻きと大相撲と冷えた生ビールが好き。
竹田聡一郎:旅するフリーライター。菜の花と堂林翔太と角打ちが好き。