79杯目:花の便りときびだんご

79杯目
今年は開花が早かった
東京都渋谷区/竹田聡一郎撮影
(“チェキ” instax mini 8)
 
 

椎名この春はビールがうまい気がする。

竹田恐れながら申し上げますが、椎名さんは季節関係なくアホほど飲んでいますし、どの春もそう言ってますよ。花見はしたんですか?

椎名あまり好きじゃない。

竹田椎名さんは花見が嫌い、というより花見の会場の喧騒が嫌なんでしょうね。

椎名その通り。わかってるじゃないか。山奥の誰も来ない一本桜の下で静かに焼酎のお湯割り、だったら喜んで行く。

竹田そんな場所あるんですか?

椎名あるんじゃないかな。見つけてきてくれよ。お湯割りに梅干し入れていいから。

竹田僕は熱燗がいいです。

椎名しかし、春だからみんないろいろあるんだね。

竹田というのは?

椎名この前、雑魚釣り隊の数人から連絡をもらって、池林房で乾杯したんだ。

竹田僕もいたじゃないすか。

椎名そうだっけ。

竹田この春から新しい環境に身を移すおっさんが4人いたけれど、椎名さんと僕だけが相変わらずだった。

椎名みんな元気で前向きな話が聞けて良かった。

竹田特に岡本釣り部長の転身には驚きました。岡山でブドウ作り。

椎名ぜひいいワインを届けてほしい。

竹田遊びに行きましょうよ。来月、偵察してきます。なんかすげえデカい日本家屋に住むらしいので。

椎名おお、報告を頼む。

竹田きびだんごをもらって、そのまま居着いちゃうかもしれません。

椎名きびだんごって美味しくないぞ。

竹田食べたことあるんですか?

椎名いつだっけな。あっちのほうに行った時に、これが元祖ですって出された。

竹田まあ、元々は黍で作ったものですから。穀物特有の苦味やえぐみがあるんですかね。

椎名うん、草を食べている感じだった。現代で市販しているお土産のやつはそれなりに美味しいとは思うけれど。

竹田ちょっと調べただけでも、黒糖、きな粉、マスカット、チョコレートなど、いろいろな味がありますな。

椎名そっちのほうが犬も猿も雉もついてきてくれそうだ。

竹田椎名さんはどちらかといえば鬼側かと。

椎名桃太郎と鬼の関係も、いろいろな説があるんだ。

竹田大和朝廷側からの視点とか、鬼たちは海賊だったとか。諸説、聞いたことあります。

椎名時代や地域によって微妙にズレがあるのが面白い。『桃太郎は盗人なのか?』(新日本出版社)という本がある。

竹田倉持よつばさんの著作ですね。読んでみます。『それからのおにがしま』(岩崎書店/作:川崎洋、絵:国松エリカ)なんていうのもありますね。

椎名その前後や背景を探るという発想がいい。面白かったらフィクションでいいんだから。物語にはそういう遊びはいくらでもあっていいと思う。

竹田いつだったかな、椎名さんはSFについてのトークショーで「日本の昔話や伝説はSFのヒントとして考えると宝の山なんだ」と発言されていました。

椎名そうそう。「鬼」なんてそもそもなんだか分からないし、かぐや姫は宇宙から来る。一寸法師は『ミクロの決死圏』だ。だから岡本部長は岡山でぜひ、いいSFを書いてほしい。

竹田ん? なんか話がこんがらがっているな。彼は「シン桃太郎」を書くために吉備国に行くわけではないんです。ブドウを作るんです。

椎名ブドウ姫。

竹田タンニンたっぷし。じゃないんですよ! でも話をいちばん最初に戻しますが、岡本さんは林だか畑だか山だか、買う計画があるそうなんです。だから、山奥の誰も来ない一本桜の下で花見は実現するかもしれませんよ。うまくいけばタケノコ取り放題!
雑魚釣り隊で占有してしまいましょう。

椎名結局、君がいちばんひどい鬼じゃないか。

椎名誠:旅するバカ酒作家。春巻きと大相撲と冷えた生ビールが好き。

竹田聡一郎:旅するフリーライター。菜の花と堂林翔太と角打ちが好き。

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