78杯目:やたらと喉が渇く場所
うつろな目をしていた
北海道網走市/竹田聡一郎撮影
(“チェキ” instax mini 8)
椎名 これどこだい? 寒そうだね。
竹田 網走です。
椎名 何年くらい入るの?
竹田 質問がおかしい。僕は模範囚です。違う違う。何もしてないです。仕事で行っただけです。
椎名 おつとめご苦労さまです。
竹田 まあいいか。この写真のヒトは「網走かんご君」。
椎名 本当にそんな名前なの?
竹田 いま勝手につけました。
椎名 宮古島のヒトは何だっけ?
竹田 宮古島まもる君。かんご君は雪の中、まもる君は炎天下でそれぞれ職務をまっとうしているのであります。
椎名 網走ってどんなところだっけ?
竹田 北側はオホーツク海、東は知床、西はサロマ湖。南には阿寒摩周屈斜路湖そして川湯温泉という、道東の荘厳な自然を繋ぐ拠点ともいえる街です。冬は流氷がやってきます。
椎名 昔、見た記憶がある。
竹田 椎名さんは『日本細末端真実紀行』(JTB出版局)で行ってますな。僕は角川文庫で読みました。流氷について「ふーん、こんなもんか」的な乾いた感想がありました。ちなみにこの作中には目黒考二さんと一緒に上田の温泉に行った旅が収録されています。
椎名 そうだったかもなあ。
竹田 網走ですが、椎名さんも「網走は今日もさむかった」と書いてますが、とにかく本当に寒いので熱燗が嬉しい土地です。
椎名 肴関係を報告したまえ。
竹田 やっぱり海鮮が多いですかね。居酒屋は「ふか井」、「喜八」、「屯々」あたりに僕はお世話になっています。ちょっと懐に余裕がある時は寿司の名店「やまし田」へ。
椎名 出所した後だし特にうまいだろうね。
竹田 お言葉ですが、どちらかと言えば僕より椎名さんのほうがブチ込まれやすい人生を歩んできたはずです。
椎名 俺の場合はただの留置所だよ。
竹田 普通の人は留置所だって入ったことないんですよ。どういう所なんですか?
椎名 薄暗いんだ。やたらと喉が乾く。看守的なヒトに「水をください」と言ってもくれない。ケチだ。
竹田 喧嘩で入った時ですか?
椎名 そうだけど、「喧嘩」という罪状はないのだよ。暴行だ。
竹田 エバらないでください。
椎名 手錠は冷たいんだ。同じ房には自動車泥棒の若い男と、詐欺を働いた中年がいた。
竹田 椎名さんは房総育ちだし、独房とか池林房とか、房が好きなんですね。
椎名 ううむ。そうなのかもしれない。
竹田 いわゆる「カツ丼食うか?」的なものはなかったですか?
椎名 それはもっとちゃんとした事件での取り調べじゃないか? 朝にまずい弁当は出た。すごくまずいのに詐欺のおじさんが「うまいなあ」と言って喜んで食べていて、ああなってはいけないと省みた。
竹田 モロに実体験の反面教師だ。すぐシャバに解放されたんですか?
椎名 検事と1対1で話して、その後に木村(晋介)のお母さんが保釈金っていうのかな、よく分からないけれど、7000円を払ってくれて脱出できた。
竹田 ちゃんと返しましたか?
椎名 アルバイトに勤しんで少し経ってからだけどね。
竹田 雑魚釣り隊のベンゴシに聞いてみたら、保釈金というのは起訴された後のお金らしいんです。だから何の7000円だったんでしょうね。
椎名 なぜか金額だけは覚えているんだよな。あとは……。でもこれ、言わないほうがいいな。
竹田 はい、聞かないほうが良さそうですね。聞いても書けない。暴力ジジイ。
椎名 なんだって?
竹田 ボウモアです。ボウモアジジイ。シングルモルト飲みましょうよ。
椎名 そうだな、飲もう。
椎名誠: 旅するバカ酒作家。花粉症になったことがないから、痒いよおとか言っている友人がいるとバカめバカめと言いながらビールを飲んでいる。
竹田聡一郎:旅するフリーライター。また花粉の季節だ憂鬱だ。花粉症がどんなに辛いか知らずにエバっている人は鈍感でオロカなのだ。バカめバカめ。