77杯目:さんずいが嫌な朝
さんずいがつく代表格「海」
沖縄県宮古島市/椎名誠撮影(ニコンDf)
竹田 とても頭が痛いです。深刻です。
椎名 どうせ二日酔だろ?
竹田 もう酒やめます。
椎名 聞き飽きた。どうせ夕方くらいには飲み出すんだ。
竹田 今回は本気です。この目を見てください。
椎名 濁り切っているな。何を飲んだの?
竹田 新宿の居酒屋で普通に生ビールをやったあと、バーでシングルモルトを数杯。
椎名 そんなんじゃ大丈夫だろ。
竹田 そうなんです。いい酒だったんです。でも絶好調で飲んでいたところ、後輩から連絡をもらっておでん屋に。そこで日本酒をおでん出汁で割る、いわゆる「出汁割」をやりまして。
椎名 春とはいえ、まだ寒いしね。
竹田 そうなのです。スイスイいって、気づけば朝です。おでん屋後半から記憶ないです。タクシーの1120円レシートあり。頭ズキズキ胃ムカムカ腸グルグル。台所には封だけ開けた「日清焼そばU.F.O.」がありました。
椎名 あほや。
竹田 椎名さんは二日酔いになるイメージないっすね。
椎名 最近はあんまりない。でも昔、メキシコで遭った二日酔いはひどかった。テキーラ。
竹田 あー、『ひとりガサゴソ飲む夜は……』(角川書店)で読みました。でも「遭った」という表現は責任が外にあるような印象を受けますが、自分で飲んだんでしょう?
椎名 うまかったんだよ、テキーラ。
竹田 同作には「じわりとまとわり付く激しい熱気がその強い酒とすこぶる合う」とメキシコの風土と共に描かれています。
椎名 なかなかいい表現じゃないか。しかしその後が地獄だった。
竹田 便器を抱えて気を失ったんですね。あほや。
椎名 本当に辛かった。そう思うと、海外にいた時のほうが二日酔いになってたかもしれない。
竹田 「ガサゴソ」ではメキシコをはじめ、ロシアのウオトカ、中国の茅台(マオタイ)酒などが報告されています。
椎名 うむ。旅先だから取材も兼ねている。たくさん飲むのは仕事なのだよ。
竹田 正当化してますが、同作にはサラリーマン時代に気がついたら品川のホテルの一室で真っ裸で寝ていたという愚行が記されています。しかも靴紐が片方なかった。
椎名 不思議なことはあるもんだよなあ。
竹田 そんな他人事みたいに。ああ、ダメだ。酒の話しているとどんどん頭が痛くなってくる。
椎名 二日酔いの時は「酒」という字面で頭痛が重くなるよなあ。さんずいのついた漢字すら見たくない。
竹田 んな大袈裟な。
椎名 池、沼、泳、洋、洗、津、滑、涎、淑、窪、淡。
竹田 なんかすごい怖い。やめてください。
椎名 ふふふふ。
竹田 さっき味噌汁を飲んだんですけどね。
椎名 効くの?
竹田 どうなんですかね。酔いが軽度だと効く気はします。あとは塩気なのかな。梅干しとかもいいのかな。
椎名 汁物は良さそうだね。
竹田 そうすね。新宿三丁目「長春館」のカルビクッパを食べて汗をかくといいんだけどな。ああ、「汁」も「汗」もさんずいがついている。あたまいたいー。
椎名 あほや。
竹田 そういや韓国には「ヘジャングッ」という酔い覚ましスープがいくつかあって、地方によって具が違うのかな。とにかくあれを飲みたい。
椎名 うまいの?
竹田 すんげえうまいんすよ。僕は牛の血を固めたのが入っているものと、干したスケトウダラが入った「プゴク」というものが好きです。うますぎて、酒を飲みたくなる。
椎名 本末転倒じゃないか。
竹田 またヘジャングッ飲めばいいんすよ。
椎名 でも迎え酒なんて迷信みたいなもんだからな。結局は時間が経つのを待つのみなんじゃないの。
竹田 そんな元も子もないことを。ソウル連れてってください。
椎名 嫌だよ。
竹田 うー、帰って水飲んで寝ます。
椎名 そうしなさい。起きたら飲みに行こうぜ。
椎名誠: 旅するバカ酒作家。花粉症になったことがないから、痒いよおとか言っている友人がいるとバカめバカめと言いながらビールを飲んでいる。
竹田聡一郎:旅するフリーライター。また花粉の季節だ憂鬱だ。花粉症がどんなに辛いか知らずにエバっている人は鈍感でオロカなのだ。バカめバカめ。