76杯目:春を巻いた素敵な食べ物
ここで近々、春巻き散歩をしてみたい
神奈川県横浜市/竹田聡一郎撮影
(“チェキ” instax mini 8)
椎名 春巻きを食おう。
竹田 どうしたんですか、急に。ここの13杯目「町中華は正義の味方」でも触れましたが、お好きですなあ。
椎名 焼き立ての餃子もいいけれど、揚げたての春巻きはなおいい。
竹田 そもそも春巻きってなんで春巻きっていうんでしょうね。
椎名 タケノコが理由だった気がする。
竹田 安易な現代人としてすぐさま検索しますね。おー、ふんふん。当たらずとも遠からず、です。中国は立春のころに小麦粉の皮に新芽などを巻いて食べる風習があり、それが春巻きの原点だったという説が強いようです。
椎名 なるほど。
竹田 日本はだいたい豚肉、タケノコ、ニラ、シイタケあたりが一般的な具材ですよね。
椎名 他にもあるの?
竹田 エビなど海鮮は割と見かけますね。
椎名 あるね。あの揚げないやつも好きだな。
竹田 ああ、生春巻きですね。ライスペーパーを使った、ゴイクンというベトナム料理の定番です。僕はパクチーが好きなので、時々、自分で作って食べます。
椎名 ベトナムって食文化が豊かな国だと思う。
竹田 椎名さんは『南シナ海ドラゴン編 にっぽん・海風魚旅5』(講談社)あたりで触れてますが、中華とフランスという、世界三大料理の2つの流れを汲んでいるわけですから、当然といえば当然ですね。
椎名 あとひとつは何料理?
竹田 トルコ料理です。
椎名 あれはどんな基準で選んでいるのだろう。
竹田 三大ナントカについては、まとめてやってもいいですね。そもそも三大料理は宮廷料理が前提にあるとされていて、トルコ料理は香辛料や羊肉など大陸東西を地理的にも文化的にも繋ぐ要所として発展した独自性が評価されているようです。まあ、そもそも誰が決めてんだ、って部分はありますが。話を戻して春巻きと生春巻きです。
椎名 生春巻きはうまいけれどビールよりワインだなあ。あとは春巻きは時々、暴力的に食べたくなるが、生春巻きにはそれがない。
竹田 なるほど。言われてみれば「今日、生春巻き食べたい!」という衝動は少ないかもしれません。ベトナム人はあるんだろうか。
椎名 それに比べると揚げた春巻きはあのパリパリがビールを呼ぶんですよ。
竹田 僕は時間が経って、少ししなっとしたのも好きなんですよね。上品とは言えないかもしれませんが、酢醤油をべったりつけて頬張ってからビールで流し込んじゃう。
椎名 からしたっぷし。
竹田 いいですな。ちょっと辛すぎて、慌ててビールを飲む。みたいなのもまた幸せですなあ。
椎名 春巻きの有名店みたいなのはあるの?
竹田 専門店があるらしいんですよ。日本初ですって。場所はなんと小岩。
椎名 おお、かつてのホームタウンだよ。どのあたり?
竹田 正確には新小岩ですが。『哀愁の町に霧が降るのだ』(情報センター出版局)の舞台から中川放水路を渡って西に15分ほど歩くのかな。
椎名 偵察してきてくれよ。
竹田 うす。でも、専門店を否定するわけではないんですが、春巻きって主役を張るというより名脇役とか、ビールの勢いをつける存在というか、春巻きだけ食べる食卓は成立するのかなと純粋に疑問ではあります。
椎名 そうかもしれないね。まあ、そんな点も含めてレポートを頼む。春巻きは食卓序盤に登場するヒトなので、そこまでビールでやっておいて、あとは紹興酒に移行してゆく作戦を執る。
竹田 作戦とか、んな大袈裟な。
椎名 大切なことですよ。それとも君は無計画なのか?
竹田 椎名さんだけには言われたくないですな。いつも刹那的に大酒を飲んでるくせに。
椎名 私はパリパリを大切にしています。サクサクもいいな。
竹田 うーむ、よく分からないけれど、こだわりは強そうだ。これ以上、追求すると殴られそうなのでやめておきます。とにかく適当な中華料理店に出かけましょう。
椎名 からしはたっぷし。
椎名誠: 旅するバカ酒作家。花粉症になったことがないから、痒いよおとか言っている友人がいるとバカめバカめと言いながらビールを飲んでいる。
竹田聡一郎:旅するフリーライター。また花粉の季節だ憂鬱だ。花粉症がどんなに辛いか知らずにエバっている人は鈍感でオロカなのだ。バカめバカめ。