75杯目:失踪と近況と新聞

75杯目2
屋上にちょっと出るだけの日もある
東京都中野区/椎名誠撮影
(“チェキ” instax mini 90 ネオクラシック)
 
 

竹田 まいど!『失踪願望。コロナふらふら格闘編』(集英社)に重版がかかったと聞きました。おめでとうございます。

椎名 ありがとうございます。

竹田 好意的に読まれているんですねえ。椎名さんの日記文学は久しぶりですしね。

椎名 うん。でも日記とはいえ、時事的なニュースについて書くのは、週刊誌のエッセイなんかを除けばあんまり気が進まないんだ。

竹田 へえ。同作では割と多い印象です。脚注という形で世の中の動きを編集の武田さんが入れています。

椎名 彼女から「気になるものがあれば時事ニュースについても触れてください」というお願いもあったし、書きやすいものだけは書いた。それがあの脚注と相まって、ひとつの記録になった。コロナというのはある意味、最大の時事ニュースだしね。

竹田 コロナが他人事、なんて人はいないだろうし、緊急事態宣言が出たとか、くだらねえマスクが届いたとか、東京五輪を無観客で開催したとか、そういうニュースの時に人はそれぞれ必ず何かを考えたはずです。つまり椎名さんの日記を通して、読者も当時を思い出すことができる。

椎名 いい解釈だね。もちろん、いいことばかりではないけれど。

竹田 追体験とはちょっと違うか。けれど、共有できる部分は小さくないでしょうね。ところで、僕は反省していまして。

椎名 どうしたの?

竹田 この「最近のシーナ」なんですけれど、前回の酒田ワンタンメンとか東北西海岸旅とか、椎名さんの旅というより「最近のタケダ」になってしまって、看板に偽りありなんです。以前から「もっとシーナさんに喋らせろ」というご意見もいただいているし。

椎名 ふーん、そうなのか。

竹田 そもそも「椎名さんの近況を」というところが原点なので、本末転倒な気もしているんです。

椎名 気にしすぎだよ。これまでどおり好きなようにやってくれ。

竹田 ううむ、わかりました。ただ、椎名さんの近況、例えば1月に伊豆に行ったとか、2月に宮古島に飛んだとか、大ネタは『失踪願望。』のオリジナルである集英社のWEBサイト「学芸の森」で使うかな、と遠慮しちゃうんですよ。

椎名 少しくらい重なるのは仕方ないんじゃないの。昔、東海林さだおさんにエッセイについて「毎回、面白いことを書くのは難しい。3回に1回くらいでいいんだ」と言われて、すごい気が楽になったことがある。

竹田 おお、あの東海林さんでもそんな気持ちなんですね。でも、いつも面白いけどな、東海林さんのエッセイ。『ショージ君の旅行鞄』(文春文庫)は勉強になるし、何度も読んでます。

椎名 まあ、それくらいの余裕は持っていいってことだ。

竹田 なるほどなるほど。ありがとうございます。バランス取りつつ頑張ります。で、最近、何してたんですか?

椎名 なんもしてない。

竹田 ほら。さっそくネタがない。

椎名 だってそうなんだから仕方ない。自宅で原稿を書いて、夕方からサケ飲んでテレビ見て。

竹田 なんの番組ですか?

椎名 映画やNHKスペシャルなどが中心かな。

竹田 椎名さんはバラエティは避けそうですが、ニュースもあんまり見ないですか?

椎名 うーん、最近はニュースもバカげてるよな。もうあれはニュースじゃないのか。ほら、フィリピンから容疑者を連行しただろう。

竹田 あー、「ルフィ」ですね。確かにバカだ。

椎名 事件の本質よりも漫画のキャラクターの名前が先に来ている。もうみんな「なんの事件だっけ?」と事件そのものを思い出せなくなってしまっている。あんなの報道じゃないよ。

竹田 他人事ではない部分もあるのですが、報道の質はこの国の課題ですよね。

椎名 報道の質が下がると視聴者がバカになるのか、視聴者がバカだから報道の質が下がっているのかといえば、物珍しさや軽薄な話題ばかり安易に扱う報道側のほうが今のところ悪いと思う。

竹田 主にテレビですか?

椎名 新聞も弱腰な紙面が増えたんじゃないかな。個人的に東京新聞は面白いと思うけれど。

竹田 プレジデント誌によると「日本新聞協会が発表した2022年10月時点の新聞発行部数は3084万部。1年前に比べて218万部、率にして6.6%減少した。新聞発行のピークは1997年で、その時の総発行部数は5376万部」だそうです。

椎名 インターネットの普及と関係あるの?

竹田 大きな要因でしょうね。上記のソースもプレジデントオンラインですし、情報収集ツールとして紙が衰退しているのは確かです。

椎名 でも新聞は広く知識が入る。自分が欲していないニュースや意見もあるからいいんだよ。

竹田 本当ですよね。自分が知りたいこと以外の情報こそ、常に入れないといけないと思います。

椎名 なんかいろいろな話をしたな、今回は。

竹田 話が飛びまくって、すいません。でも、今後も「気になるニュースありましたか?」的な回は作っていきたいと思います。

椎名 わかった。新聞を読んでおきます。

椎名誠: 旅するバカ酒作家。花粉症になったことがないから、痒いよおとか言っている友人がいるとバカめバカめと言いながらビールを飲んでいる。

竹田聡一郎:旅するフリーライター。また花粉の季節だ憂鬱だ。花粉症がどんなに辛いか知らずにエバっている人は鈍感でオロカなのだ。バカめバカめ。

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