71杯目:しばれてしびれる北東北

71杯目
塩鮭は偉いのだ
岩手県盛岡市/椎名誠撮影(ニコンDf)
 
 

竹田 盛岡でおいしそうなもん、食べてますね。

椎名 塩鮭です。酒は日本酒だったかな、ハイボールだったかな。

竹田 奥に鰻だか穴子だかも見えます。

椎名 赤ワインだったかもしれない。

竹田 飲んだ酒の種類ではなく飲んだ場所を教えてください。

椎名 盛岡の「海ごはん しまか」だよ。

竹田 おお、僕はあそこの穴子を食べたことないんですよ。

椎名 名物だぞ。蒲焼きではなく、蒲揚げだかんな。

竹田 衣がタレにからんでうまいんでしょうね。いいなあ。寒かったですか?

椎名 身構えたほどではなかった。酒がうまかった。

竹田 椎名さんはいつでもどこでもどんな気温でもうまそうに飲んでますけどね。

椎名 盛岡へは最近、行った?

竹田 去年は2回かな。1月に取材で、5月には椎名さんと一緒に。好きな街です。そういえばニューヨーク・タイムズが「2023年に行くべき街」みたいな特集で盛岡を選出していましたね。

椎名 バランスいい土地だよね。県都でありながら美しい河川と山があって、古い街並みもうまく残している。

竹田 岩手山のようなシンボルがある街っていいですよね。

椎名 盛岡だけじゃないんだけれど、奥会津や仙台以北の東北は「帰ってきた」という感覚があって好きなんだ。東北新幹線の下りが公共交通機関でいちばんリラックスできるしね。

竹田 回数的には東海道新幹線のほうが乗ってますよね?

椎名 そうだろうけれど、東海道新幹線は乗客はみんな仕事みたいな雰囲気だし、せわしないだろう。

竹田 落ち着かないってことですか?

椎名 うーん、いつも本を読んで、あとはイネムリするくらいかな。

竹田 東北新幹線の雰囲気とは違いますかね?

椎名 東北新幹線の場合、例えば若者が大きい荷物を持っていると「帰省なのかな。実家に帰ったらばあちゃんの漬けたタクアンを食べるのかな」とか、いろいろ想像力が働くんだ。窓からずーっと景色を見ているおじさんは東海道新幹線にはいないと思う。

竹田 なるほど。郷愁と旅情と。缶ビールよりワンカップですなあ。

椎名 そういうことでもないんだけどな。盛岡に行くとどこに行くの?

竹田 ベタベタっすよ。ランチは盛楼閣かぴょんぴょん舎でちょっとホルモンとマッコリやってから冷麺。夜はベアレンのビアバーに行きます。

椎名 地ビールか。うまいの?

竹田 椎名さんも絶対に飲んでいるはずですよ。ピルスナー、ラガー、スタウト、ヴァイツェン、なんでもありんす。昔、好きだった子がバレンタインに「チョコレートスタウト」を贈ってくれたなあ。

椎名 遠い目をするんじゃないよ。気持ち悪い。

竹田 ともかく、どれもうまいっす。昨秋にビアバーが移転したんで、新店舗に行きたいなあ。ソフトシェルのガーリックシュリンプでかけつけ3杯飲んじゃう!

椎名 幸せそうだな。

竹田 あとは肉の米内という焼き肉の名店ですかねえ。もちろん「しまか」もいいけれど、いつも混んでるんですよね。以前は「俺っ家」もよく行きました。

椎名 そうか、「ひげマス」ことひげのマスター・熊谷さんは陸前高田に凱旋したもんな。

竹田 コロナ前にみんなで大宴会したの楽しかったですね。

椎名 地酒を飲みすぎて、みんなバタバタと倒れていかなかったか?

竹田 よく覚えてますね。酔仙酒造のにごり酒「雪っこ」がうまくてうまくて。名前どおり飲み口は優しい感じなのに、気づくとすげえ酔っ払っている。雪女に騙されるとあんな感じなんですかね。

椎名 よく分からないが、たぶん違うと思うぞ。

竹田 雪女は美人だからなあ。

椎名 そういう問題じゃないと思う。

竹田 ともかく岩手や青森など、北東北はいい街が多いですよね。

椎名 むかし、北東北マガジン「ラ・クラ」で連載をしていたのだけれど、楽しい取材が多かった。

竹田 PHP研究所から『北への旅 なつかしい風にむかって』という書籍にまとまっていますよね。青森、岩手、秋田の北東北3県と、宮城、山形、福島の南東北3県に違いがあるとしたら、どんなところですか?

椎名 別にどちらがいいトカ悪いでは決してないのだけれど、仙台なんか大都市だし、意識がどうしても東京に向く部分はあると思うんだ。

竹田 ふむふむ。

椎名 逆に北東北の人は「ここで生きてゆく」という覚悟や郷土愛が強いような気がする。

竹田 なるほどー。

椎名 さっきの新幹線の話も、仙台でたくさん人が降りてさらに車両が北に進んで車内も閑散としはじめると「ああ、東北に来たなあ」と思うんだよ。

竹田 あー、それは思います。逆に青森や岩手からの上りの帰京便に乗っていて、仙台でたくさん人が乗ってくると旅の終わりを実感する。

椎名 そういうことだね。でも、悪い気分ではないんだ。

竹田 そうですね、少しさみしいけれど、温かい気持ちになれる。

椎名 どっか行く予定はないの?

竹田 ふふふ。明日から北海道なんです。

椎名 おお、いいじゃないか。どんどん行きなさい!

 

椎名誠: 旅するバカ酒作家。井上陽水が歌う「コーヒールンバ」が好きだ。

竹田聡一郎:旅するフリーライター。最近はスカパラとくるりを聴いています。

旅する文学館 ホームへ