70杯目:小伝馬町で会いましょう
写真展は2月5日まで
東京都八丈町/椎名誠撮影(ニコンDf)
竹田 小伝馬町に行ってきましたー。
椎名 お、「ルーニィ」か?
竹田 そうです。ルーニィ247 ファインアーツ。素敵なスペースでした。
椎名 今回のテーマはどんなものだっけ?
竹田 え、忘れたんすか。webサイトから引用させていただくと、「文学と旅の匂いのする、椎名誠さん」、「音楽と旅の匂いのする、ハービー・山口さん」という紹介がされています。椎名さんが「気持ちおどる旅2」で、ハービーさんが「音楽が聴こえる」という同時写真展が開催中ですね。
椎名 いつもディレクターの杉守加奈子さんにお任せなんだよ。どんなふうに展示がされるか楽しみにしている。「これとこれとこれを使って、こんなテーマで展示しましょう」と鮮やかな提案をしてくれる。まどろっこしい説明や企画書も特にない。
竹田 杉守さん、おそらく会場にいらっしゃいました。他のお客さんとお話しされていたので、ご挨拶しそびれてしまったのでまた改めて行ってきます。
椎名 少しシャイだけれど、話していて心地のよい方だよ。写真はどうだった?
竹田 光の強い写真があったり、儚い雰囲気のものがあったり、椎名さんの作品とハービーさんの作品の対比が面白かったです。おふたりが何を見て旅をするか、どんな時にカメラを構えるのか。それに少し触れることができて、僕もカメラ持ってどっか行きたくなりました。
椎名 ハービーさんの写真はどんなものが展示されていたの?
竹田 もちろん色々とあるのですが、僕がいいなと感じたのは子どもの表情や、若い子たちが日常の中でどこかへ向かうような写真でした。あとは水のある環境をきれいに撮っていた印象です。うまく説明できないので見に行ってください。
椎名 わかった。楽しみだ。
竹田 それに対して椎名さんは雲や空など、景色的に広がりのあるものが特徴的だった気がします。
椎名 最近の写真もあっただろ?
竹田 はい、八丈島で食べた島寿司。あとはちょっと前なのかな、新橋の名酒場「ビアライゼ’98」の生ビール。雲と空の人生を深く考えてしまうような写真の後の、ああいう即物的欲望まみれの写真が交錯するあたりが椎名さんの「気持ちおどる旅」なんですかね。
椎名 ううむ、そうなのかもしれない。寿司もビールも我が人生だ。
竹田 なんだか羨ましい。
椎名 この前、調布で開催されているつげ義春さんの特別展示を見に行ったんだけれど、そこでつげさんが集めていた中古カメラがいくつかあったんだ。
竹田 あれっておそらく、つげ先生の『カメラを売る』からはじまる助川を主人公にした作品の原点ですよね。実話なのかな。
椎名 半分はそうだろうね。そこで中古カメラを見て、ああ、俺も小伝馬町のガードしたで売買してたなとか、いろいろ思い出した。
竹田 作家になってからは新宿「犀門」のそばに、なじみのカメラ店があったと聞いたことがあります。
椎名 あー、なんていったっけな、あの店。でも、そうそう、確かにあった。犀門に行く前は必ず経由してライカが入ってないかと確認していた。別に買うわけじゃないけれど、楽しかったんだ。
竹田 どのあたりですか?
椎名 犀門の並びだよ。今もある立ち食いそばの近く。
竹田 へー、あんなところに。しかし、ミヤマ商会やアルプス堂といった、新宿の名物ともいえる中古カメラ店が相次いで閉店しちゃいましたもんね。
椎名 今は量販店が主役だろうし、安くていい新品が買えちゃうからね。便利なんだけれど、中古カメラの掘り出し物を見つけるのは何にも替えがたい娯楽だったんだけどな。
竹田 今は携帯も優秀ですしね。
椎名 ううむ。
竹田 小伝馬町に話を戻しますが、写真が身近なものになったからこそ、椎名さんやハービーさんが何を狙って撮ったか、というのは大切になってくる気もします。
椎名 どういうことだい?
竹田 「映え」なんて、基本的にはしょせん作られた絵なわけです。椎名さんが種差海岸で撮った馬の一枚は、ご自身も一言添えていたような意図がある。その意図の有無こそこれからの写真の良し悪しになってくるのでは、と思うんです。
椎名 意図はみんなあるんじゃないの? 携帯でも。
竹田 うーん、うまく言えないな。すいません。小伝馬町にお供しますので、そこで続きをやりましょう。
椎名 いいな。ルーニィのそばには居酒屋も蕎麦屋も焼き鳥屋もたくさんある。
竹田 明日、行きましょう。
椎名誠: 旅するバカ酒作家。2023年も元気に飲めればそれでいい。
竹田聡一郎:旅するフリーライター。温泉とビールを求めて北へ向かいたい。