69杯目:さらば、怪しい雑魚釣り隊(後編)

69杯目
雨だったが、よく飲んだ
東京都八丈町/竹田聡一郎撮影
(“チェキ” instax mini 8)
 
 

竹田 さて、前回の続きです。雑魚釣り隊最終回の八丈島でアホ隊員たちは何をしていたか。

椎名 みんなの取材メモを読み直したんだけど、童夢の寿司への情熱がすさまじいねえ。

竹田 そうなんですよ。彼と太陽の「長崎のバカ兄弟」は雑魚釣り隊の最古参ドレイでもあるんですが、初期は10人ほどの隊員に対してドレイは彼らだけだったから、水汲み皿洗いに忙殺されて釣りなんてほぼできなかったらしいです。

椎名 そうなのか。涙なしでは語れないな。

竹田 あんたが指名したんでしょうが。童夢は20代前半でドレイとなっていま43歳ですから、人生の半分をドレイとして過ごしたことになる。ただ、近年はドレイも増えたから釣りと向き合う余裕がやっとできたらしいんです。プライベートでも釣りに行くようになって寿司に目覚めた。

椎名 そこがわからないんだ。あいつ代理店マンだろ?

竹田 超大手です。

椎名 どうして釣りをはじめると寿司を握るの?

竹田 そうですね。そこが繋がらない。でもまあ、寿司はみんなうまそうに食ってますし、細かいことはどうでもいいかあ、という雰囲気はある。後輩のショカツや快あたりは童夢に懐いているみたいですし。

椎名 そうか。快がレギュラーメンバーになったもんな。

竹田 親父の西澤亨は南海で朽ちたので、入れ替わりです。年末にはめでたく入籍もして、いまいちばんノリにノッてるドレイですね。勢いあまって八丈島では童夢に譲ってもらった竿を折ってました。

椎名 粗暴な父親の血だろうな。

竹田 ともあれ2世代が同時在籍するくらい長くやってきたんですね、雑魚釣り隊。個人的には一度、来てくれた椎名さんの孫の風太も今年で20歳ですし、また一緒に遊べるといいなと思っています。

椎名 そうだなあ。その時は頼む。

竹田 ただ、あいつ賢いからなあ。「バカだなあ、この人たち」と思われてないか不安だ。

椎名 実際、バカなんだから仕方ない。

竹田 バカの親玉がそれを言いますか。

椎名 ん?

竹田 なんでもありません。あとは大量のヅケを山盛りの白飯に乗っけて、天野と似田貝が丼めしで乾杯していたり、酒が足りなくて三嶋が3回くらい買い出しにいってくれたり、みんないつも通りといえばいつも通り。

椎名 下戸の三嶋こそ「この人らよく飲むなあ。バカだなあ」と思っているんじゃないか?

竹田 そうかもしれないですね。ただ、彼のメモには「椎名さんの最後の挨拶に心が動いた」とあります。

椎名 なんか言ったっけ?

竹田 「連載が終わるだけで、隊が終わるわけではない。みんなここまでダメな大人になることはできた。これからはダメな老人を目指してくれ」と言ったらしいんです。

椎名 全然、覚えてないな。そして感動するような内容じゃないだろう。

竹田 コーク野郎・三嶋も変わってるんですよ。そういう愛すべきヤツばかりです。あとは、最後まで会計係をしてくれたケンタローが「あんたら最後まで本当によく飲むなあ」とボヤいてましたね。

椎名 そういや、あいつ転んでたな。

竹田 ははは、ありましたね。低めのアウトドアチェアに座って味噌汁を受け取る時、横着して動かずに左手だけ伸ばしたらバランスを崩して、割と激しく転げた。意地汚く右手のヅケ丼と左手の味噌汁を離さないもんだから、隣に座っていた椎名さんのほうへ……。

椎名 味噌汁の滴が向かってくるのがスローモーションのように見えた。

竹田 『マトリックス』の世界だ。最後の最後に作家に味噌汁を浴びせるあたり、彼も最後まで彼らしかった。

椎名 楽しかったよ。まあ、近々、そんな話をみんなで新宿あたりでしようぜ。

竹田 そうすね。夏に単行本が出る予定なので、そのくらいのタイミングでまた遊べるといいっすね。

 

椎名誠:旅するバカ酒作家。2023年も元気に飲めればそれでいい。

竹田聡一郎:旅するフリーライター。温泉とビールを求めて北へ向かいたい。

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