68杯目:さらば、怪しい雑魚釣り隊(前編)
よく遊ぶ気のいいバカ集団
東京都八丈町/椎名誠撮影(ニコンDf)
竹田 小学館「週刊ポスト」の新年号に、怪しい雑魚釣り隊の最終回が掲載されました。
椎名 秋の八丈島は雨だった。
竹田 メシも酒も文句なくうまかったですけれどね。最後に雨に降られるというのも、いかにも我々らしくはありました。
椎名 台風にぶつかったり、大雪に降られたりいろいろあったもんな。最初の取材はいつだっけ?
竹田 2005年9月です。この前の八丈島を最終日とするなら、のべ6247日間なんですよ。
椎名 ああ。Tシャツに入っていた数字はそれか。
竹田 気づいてなかったんすか。
椎名 うん。でもいいデザインだったよ。ありがとう。
竹田 個人的な感想を申し上げていいですか?
椎名 もちろんだ。
竹田 最終回の原稿が割とあっさりしていた気がします。もっと感傷的なことが書かれると勝手に思っていました。
椎名 うーん。それなりの感慨はあるんだけれど、自分たちで遊ばせてもらっているだけの連載だから、感傷的になるのもなんか気持ち悪いじゃないか。
竹田 あー、言われてみればそうですね。自己満足のような。
椎名 そうそう。それにこの八丈島以降もほとんどのメンバーに新宿で会っているんだから、しみじみしても仕方ない。
竹田 この雑魚釣り隊は「第三次怪しい探検隊」と呼ばれたりもしています。目黒考二さんや木村晋介先生がメンバーだったオリジナルの第一次隊、野田知佑さんや中村征夫さんが名を連ねた第二次いやはや隊の時も特に「最終回」という記述はなかったですもんね。
椎名 おそらくそうだね。特に意識してなかったし、どうせまた同じメンバーで遊ぶだろうから、いつ「帰ってきた怪しい探検隊」が結成されてもおかしくはない。そもそも「隊」っていったって、会費や規則があるわけじゃないからねえ。
竹田 話を戻して感傷的、という意味では隊員やドレイのほうが気持ちが強くて、みんなそれぞれ雑魚釣り隊の総括をしています。
椎名 うん、読んだよ。ケンタローに簡単な取材メモを集めてくれ、とお願いしたら、みんな膨大な量を書いてくれた。
竹田 そうみたいですね。膨大すぎて椎名さんも使えなかった部分が多かったようなので、ここでちょっとバカたちの八丈島での珍挙動を紹介してみましょう。
椎名 いいではないか。
竹田 釣りの話はちょっと専門的すぎるので割愛します。釣り部部長の岡本さんなんて「スロージギングで探るとフラットな海底に時折混じるツブ根で、アカハタやホウセキハタ、メイチダイが喰ってくる」とか書いているけれど、釣り素人の我々には念仏に近い。
椎名 彼は陸にいる時はいちばんまともなビジネスマンなんだけど、竿を握ると豹変するのかな。
竹田 どうだろう。宴会の後、足湯に浸かってウトウトしてたらなんかの拍子に上半身ごと突っ込んでずぶ濡れになってましたぜ。
椎名 ううむ、ただのバカかもしれない。
竹田 ただのバカ、という意味では山崎のレポートを引きます。青唐辛子を薬味として使ったあと、トイレに行ったらしいのですが、「用を足したら股間が大変なことになりました。八丈島は厳しいところです」とのこと。
椎名 イージーミスじゃないか。彼も優秀な編集者なんだけどなあ。もうちょっと心あたたまるエピソードはないの?
竹田 田中ベンゴシの初参加はタコ釣りで、最終回の今回も島ダコが食えて感慨深かったと書いています。
椎名 あいつはよく飲むからなあ。雑魚釣り隊には途中入隊だったけれど、すぐに馴染んだ。
竹田 一度、米子だったかな。キャンプしてずーっと飲み続けて、帰京便で眠りこけてCAさんに「お客さん、終点です」と電車のように起こされていたことがありました。
椎名 バカだなあ。長崎のバカ兄弟は?
竹田 お互いを愚兄と愚弟と呼び合う、あのふたりの愚行は挙げればキリがないのですが、今回はふたりとも船の上で餌のムロアジが泳ぐ生け簀に落ちたらしいです。しかも違う船でそれぞれ。
椎名 なんてバカなんだ。でも童夢が握った島寿司は素晴らしかったね。カズにうまいと言わせたのはたいしたもんだ。
竹田 あと他にはですね……。まだまだあるな。これ次回にしましょう。
椎名 そうしよう。
椎名誠:旅するバカ酒作家。2023年も元気に飲めればそれでいい。
竹田聡一郎:旅するフリーライター。温泉とビールを求めて北へ向かいたい。