65杯目:シーナさんに質問だ! ’22秋冬ver.
三陸の市場。旅をしていても生活に近い場所は好きだ
岩手県宮古市/椎名誠 撮影
(“チェキ” instax mini 90 ネオクラシック)
竹田 師走ですし、このコーナーの44杯目でやった「シーナさんに質問だ!」をやりましょう。
椎名 あんまり師走と関係ない気もするけれど。
竹田 まあいいじゃないですか。SNS経由でいくつか質問が届いています。
椎名 現代だねえ。
竹田 まずはガンマーさんから「椎名さんが旅先を決める時に1番重要だと思うことは何ですか?」という質問です。
椎名 えー、のっけから申し訳ないけれど、特に意識したことがない。
竹田 基本的に仕事がからんだ旅ですから、行き先は自分で決めないんでしょうね。
椎名 そういうことだね。自分で決めていたのは別荘を持ってた時期、余市に行く時くらいかな。例外的に強く行きたいなと思ったのは楼蘭とパタゴニア。
竹田 ガンマーさんはその続きで「行ってから必ずやるべき事は何でしょうか?」ともおっしゃってます。
椎名 うーん、これも特にない。君はなんかやるべきことはあるの?
竹田 旅の種類にもよりますが、ある程度、時間に余裕があればスマホを開かずに長い距離を歩いてみますね。
椎名 それはどうして?
竹田 街のつくりとか距離感とか、自分の足で歩くと少しずつ分かってくるんです。逆に言えばタクシーに乗っちゃうと、地点から地点の移動になるので土地勘を養えない。
椎名 迷子にならないの?
竹田 それは望むところです。宮田珠己さんは著書の中で何度か「迷子は最高の贅沢だ」的なことを書いてらっしゃるんですが、とても共感しています。それに街中にある観光案内や地図はチェックしてOKという自分ルールがあります。盛岡、高知、金沢、広島、熊本などなど、駅と城下町あるいは繁華街が離れている都市は歩くと楽しいです。
椎名 ふーん。
竹田 とにかく椎名さんは「旅先で必ずやることなんてない」という結論ですね。
椎名 強いて言うなら缶ビールと水を買っておくくらいだな。あんまり強く「これをしなくては」を決めてしまうと不自由になってしまう。
竹田 お、最後にいい事を言いましたね。
椎名 うむ。「これをしなくては」は不自由だ。
竹田 2回言わなくていいっす。続いてピエロロさんから。「今までの人生でやり残したことはありますか?」
椎名 これもない。あるといえばたくさんあるかもしれないけれど、頭を抱えて「あれをやっておけばなあ」と後悔するようなことはないと思う。
竹田 以前、椎名さんと雑談していて「何かひとつでも楽器を弾けたら違う人生だったかもしれない」という話題が出たことがありますね。
椎名 したかもね。かといってその人生を歩みたいかと言えば想像つかないなあ。楽器ができたら楽しいだろうなとは思うけれど。
竹田 確かに。もし音楽家になっても「作家ってどんな人生なんだろうな」と思ったりして。
椎名 そんなもんだよな、きっと。
竹田 もう少し軽い質問もきています。この冬の酒と肴の主戦力はなんですか?
椎名 そういう質問は答えやすいなあ。ビールは黒ビール。肴はマグロ。これさえあれば怖いものなしだ。
竹田 黒ビールとは何を?
椎名 この前、大手4社の黒ビールを飲み比べしたんだけれど、ヱビスがいちばん好きだなあ。
竹田 あれはうまい! 泡までしっかり味があるんですよね。マグロは刺身で?
椎名 そう。昨日も食べたんだけれど、本マグロの中トロだからな。なめんなよな。
竹田 一枝さんが買ってきてくれるんですね? 優しいなあ。
椎名 濃厚な脂で、王者の味だった。
竹田 腹減ってきた。今回の質問は「ヱビスの黒はマグロに合う」しかためになる回答がなかったかもしれないですね。みなさま、すいません。
椎名 旅についての話って、その人そのものが見えてこないとしにくいんだよね。
竹田 そうですよね。男性なのか女性なのか。ひとりなのか家族なのか。メシがメインなのか。写真を撮りたいのか。それによって回答やアドバイスも変わってくる。
椎名 そういうことだ。旅はその人を体現するからね。次回から君も答えなさい。
竹田 えー、僕のようなものが何も言えないっす。僕宛に質問来たら考えますが、たぶん来ないっす。引き続き、質問や相談は「椎名誠 旅する文学館」Twitter(@shiina_tabi)を活用させていただきます。ただ、今回のようにたいした回答が得られないケースのほうが多そうなので、あらかじめご了承ください。
椎名 みなさん、風邪などひかぬよう。私は今夜もマグロを食べます。
椎名誠:旅するバカ酒作家。近著『失踪願望。』(集英社)が全国で好評発売中。
竹田聡一郎:旅する麦酒ライター。遠著『日々是蹴球』(講談社)がごく一部で好評発売中。