63杯目:8強願望。

63杯目
WもいいけれどJもいい。来季は信州ダービーが観たい。
長野県長野市/竹田聡一郎撮影(“チェキ” instax mini 8)
 
 

竹田 やりましたあ!

椎名 ドイツとスペインに勝つとはなあ。なんでコスタリカに負けちゃうの?

竹田 え?

椎名 ん?

竹田 いや、失礼しました。まさか椎名さんがワールドカップをご覧になっているとは。あまりにも予想外だったのでリアクションを取り損ねました。

椎名 そっちが話題にしたんだろう。

竹田 それはそうなんですけれどね。どの国を応援しているんですか?

椎名 日本は別として、特定の国を応援しているわけじゃないんだ。選手もよく知らない。テレビをつけてやっている試合をなんとなく観ている程度だからね。

竹田 どの試合ですか?

椎名 けっこう観たよ。イングランドやアルゼンチン。

竹田 おお、いいですなあ。近代サッカーは展開がとにかく早いですから、酒飲みながら観戦するぶんにはいいかもですね。

椎名 すごいスピードで行ったり来たりするもんなあ。

竹田 ショートカウンターは当然ながら、キーパーがビルドアップの起点になるのはどのチームも普通ですし、敵陣でボールを失ってから早く守備に移行するチームは強いですよね。ハイプレスを待っていなしながら前進しないことには……。

椎名 ちょっと落ち着きなさい。わかるように話してくれよ。

竹田 ああ、失礼しました。

椎名 そんなに熱く語るんだったら現地に行けば良かったじゃないか。

竹田 カタールで語るんすか。

椎名 ん?

竹田 なんでもないです。実は僕は1998年のフランス大会から、前回の2018年ロシアまで、6大会連続で現地で観戦か取材かを続けてきたんです。

椎名 ブブゼラ持って帰ってきたのはいつ?

竹田 あれは2010年南アフリカ大会ですね。帰国して翌日に『あやしい探検隊 北海道物乞い旅』(角川書店)のキャンプ旅にブブゼラ持って出かけたんですよ。

椎名 そんなスケジュールだったのか。

竹田 道東のどこかの牧場でブブゼラ吹いたら牛がいっぱい集まって来ちゃって逃亡したのもいい思い出です。

椎名 キャンプ旅だっただけど、どっかでテレビも観てたよな?

竹田 日本とデンマークの試合ですかね。岩見沢市内のスナックにわざわざ出かけて。

椎名 スナックたまねぎだ。覚えているよ。いい名前だよなあ。

竹田 そうそう。夜中だけど開けてくれたんですよ。その4年後のブラジル大会では、我々は加計呂麻島の民宿で決勝をテレビ観戦していますね。

椎名 そうだったね。

竹田 朝4時キックオフだったんですが、椎名さんは「あんまり寝られなかった」とかで起きてきたので、じゃあ観ましょうと。あなた、ビール飲んでましたよ。

椎名 そりゃ飲むだろ。でも一緒に観戦しているということは、君はワールドカップの日程の序盤で取材して帰国しているということ?

竹田 そうなんです。今ほどSNSなどが当たり前じゃなかったので、現地情報が少ない時代ではありました。だから開幕前から開催国に飛んで現地報道など前乗り取材をこなして原稿を書いて、グループリーグがはじまると同業者がたくさん来るので入れ替わりで帰国する。その次の2018年ロシア大会もそんな感じでしたね。

椎名 なるほど。で、なんでカタールは行かなかったの?

竹田 うーん、円安と酒が飲めないという2トップが強力でした。

椎名 イスラム圏か。

竹田 でも、そんなの言い訳なんですよ。2006年のドイツとか、2010年の南アフリカとか、僕はまだまだ駆け出しのライターで、本当に貧乏だったけれど、安宿に泊まって自炊して取材してましたもん。お金がなくてもそれを補うエネルギーがあった。

椎名 ふんふん。俺と君の付き合いはどれくらいになる?

竹田 雑魚釣り隊結成が2005年で、僕はその1年後の加入なので2006年ドイツ大会くらいには椎名さんにお会いして一緒にビール飲むようになりました。

椎名 そろそろ20年くらいになるんだね。ビール飲む時がまさにそうなんだけれど、当時から君はビールのお代わりに一切の遠慮と躊躇がなかったし、猪突猛進というか、根拠のない勢いやエネルギーみたいなものを感じていたよ。

竹田 なんか不遜なバカっぽいですね。

椎名 それがいいんだよ。結局、ずっとバカでいられて好きなことを続けるやつが面白いんだから。

竹田 なるほどー。当時から比べると今は仕事も増えましたし、なんとか食えているんですよね。でも、小さくまとまってしまったという自覚や恐怖もあるんです。なんだか僕の人生相談みたいになってきた。

椎名 次のワールドカップはどこでやるの?

竹田 2026年はカナダ、メキシコ、アメリカの3カ国共催です。

椎名 ずいぶん広域でやるんだね。

竹田 トロント、メキシコシティ、マイアミが同じ大会の開催地なんてすごいですよね。

椎名 面白そうじゃないか。行ってきたらいいよ。

竹田 そうっすね。やっぱりガシガシ行かないと。一緒に行きましょうよ。

椎名 嫌だよ。あ、でもひとつ苦言があるぞ。

竹田 嫌です。聞きません。

椎名 ダメだ。聞きなさい。ドイツと日本の試合の日に、俺と君はビールを飲んでいるんだよ。

竹田 そうっすね。新宿「犀門」で蒸し牡蠣と黒ビールでした。

椎名 その時、「ドイツに勝てるのかい?」と君に質問したら「厳しいと思いますよ」と即答している。しかし日本は勝った。

竹田 ……最近は何かいい映画を観ましたか?

椎名 話を逸らすんじゃないよ。数日後、コスタリカ戦の前にも飲んでいるんだ。

竹田 新宿三丁目「池林房」で焼き銀杏とトリッパを肴にハイボールでした。

椎名 「コスタリカには勝てるのかい?」と聞いたら「勝てますよ。グループリーグ突破っす」と力強く断言している。そして日本は負けた。

竹田 椎名さんは肉マンとあんまんどっちが好きですか?

椎名 こらあ! 最終的にスペイン戦前には「どっちが勝ってもいい試合になりますよ」と言って明確に答えなかった。

竹田 椎名さん、予想は常に裏切られる。それがワールドカップなんです。

椎名 お、鮮やかな開き直り。

竹田 ちゃんと勉強しなおして、4年後に備えます。

椎名 楽しみにしておくよ。でもサッカーの試合についてより紀行寄りで仕事したほうがいいかもしれないね。

竹田 ありがとうございます。攻め気で精進します。最後に椎名さん、優勝予想をしてください。

椎名 イングランド。

竹田 なるほど。僕はフランスを挙げておきます。また外れるかもしれないけれど。

 

椎名誠:旅するバカ酒作家。近著『失踪願望。』(集英社)が全国で好評発売中。

竹田聡一郎:旅する麦酒ライター。遠著『日々是蹴球』(講談社)がごく一部で好評発売中。

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