59杯目:北の離れ島

59杯目
アイヌ語で高い島「リー・シリ」に由来する利尻山
北海道稚内市/竹田聡一郎撮影
(“チェキ” instax mini 8)
 
 

竹田 島です。

椎名 なんか最近、島の話ばっかりしてるなあ。

竹田 いいじゃないすか。島には愛がありますから。

椎名 そうなの?

竹田 アイランドって。

椎名 そういうダジャレは目黒(考二)に怒られるぞ。

竹田 うん、椎名さんよく怒られてますもんね。「シーナ、そういう駄洒落はもうやめなさい。寒いよ」と。

椎名 で、どこなの? この島は。いい写真じゃないの。

竹田 はい、チェキも1年使ってきて、使い方が分かってきました。料理や小物などのいわゆる「ブツ撮り」よりも景色、特に遠景や建造物などが綺麗に撮れる気がします。逆に明るいところで人物とかは難しいです。

椎名 俺の持っているのは、露光がちゃんとしているので人物が綺麗に撮れるし、天気も苦にしないな。

竹田 空とかいい感じですもんね。話を戻して、利尻島です。遠くに霞む山影が利尻富士です。稚内の西側から撮りました。

椎名 島には行かなかったの?

竹田 行く予定はなかったんですけれど、利尻富士を見てたら行きたくなって急遽、1泊2日で行ってきました。

椎名 そういう旅のはじまり方は健全だよ。稚内から利尻島まではどれくらいかかるの?

竹田 それこそ愛を感じる名の「ハートランドフェリー」で100分です。

椎名 そんなもんか。何があるの?

竹田 有名な昆布、その昆布を食って育ったウニ、シンボル的名山、少しとろみのようなものを感じる美肌の湯、優しい人々。少し風が強いけれど、それも旅のアクセントですなあ。

椎名 いいではないか。君は観光協会のまわしものみたいだが。

竹田 正直、1泊では足りなかったです。360°海というパノラマのバックカントリーが可能らしいので、次回は雪の時期に行ってみたいっす。見晴らしのいいキャンプ場も見つけました。野営もいいなあ。

椎名 冬の北海道の、さらに離島はすさまじいからな。死ぬなよ。昔、俺はイソモシリ島に行ったよ。

竹田 どこですか、そこは?

椎名 歯舞沖の国境近くの豆ツブみたいな無人島。根室市なのかな。

竹田 ああ、カニ鍋した時っすね。『あやしい探検隊 不思議島へ行く』だ。これ、オリジナルは光文社から出てるんですね。その後、角川文庫に収録されています。

椎名 「週刊宝石」の連載だったんだ。焚き火しようとして流木を拾っていたらキリル文字が刻まれていたのを覚えているよ。

竹田 同作では南方、日本最西端の与那国島にも行っています。

椎名 そうだね。その時はあまり深く考えてなかったかもしれないけれど、やっぱり現場に行くと国境というもの、異国というものを感じていたよ。

竹田 日本は島国ですしねえ。

椎名 そうなんだよ。ヨーロッパとか行けば国境というものが当然、身近にあるけれど、国境というものを我々は視覚で感じることは少ない。それがいいことか悪いことかは分からないけれど。

竹田 カニ鍋はうまかったですか?

椎名 寒かったからね。タラバの足に雪がついていて、そのまま鍋につっこんだ。

竹田 いいなあ、それも旅情とシズル感がある。北の無人島キャンプなんて、そこまで激しい旅はできないかもしれないけれど、その現地の空気ありきで酒やメシのうまさって変わってきますよね。

椎名 どういうこと?

竹田 酒も料理もその土地に合ったものが研究というと大袈裟だけれど、その土地の人が得た経験や生活に根ざしつつ定着していくものじゃないですか。気候とかもある。

椎名 シルクロードの冬では、羊の餌に塩気を足して羊の身体を温めるんだってな。

竹田 そこまで大自然ではないけれど、根っこはそんな感じっすね。わしらも冬場は生姜を食べたりしますし。だからゴーヤチャンプルーにはオリオンビールがいちばん合う、と僕は思っています。あれ? 何が言いたいんだっけ。

椎名 土地ごとに合った酒と飯があるという話だった。

竹田 そうそう、それです。加えて旅はシチュエーションが独特だから日常からの開放感や、わざわざやってきた手間や距離が心理的スパイスとなって味にも影響しているのではないかという私見です。

椎名 キャンプでチキンラーメン作るといつもよりうまいもんな。

竹田 まさにそういうことです。でもそれには逆の例もあって、地方の有名店が東京に出てくる。食べに行っても「あれ? こんな味だっけ?」と首を傾げることがあるじゃないすか。

椎名 うん、あるな。どことは言わないけれど。でも三鷹の「満月」は酒田本店と同じ味でうまかった。

竹田 そっちのほうが珍しいかもしれません。だから例えば盛岡の「福田パン」は地元の味にとどまってほしいし、静岡の「さわやか」はご当地グルメを貫いてほしい。

椎名 酒もそうだよな。

竹田 その話はダメ! スコットランドの話をするでしょう?

椎名 なんで分かったんだ。でもアイラ島だから、今回の話題として適切じゃないか。

竹田 おれ、スコットランドでウイスキー飲むの夢なんすよ。椎名さんと話しててその話になると、羨ましすぎて眠れなくなるんです。

椎名 スペイ川沿いにある蒸留所に……。

竹田 今日はもうおしまい! その話はまた今度、聞くので秘蔵のシングルモルト飲ませてください。

 

椎名誠:旅するバカ酒作家。元楽天の嶋基宏捕手がヤクルトで引退していてさみしい。好きな選手だった。

竹田聡一郎:旅するフリーライター。新井新監督、よろしくお願いします。キャンプ行こうか迷ってます。

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