52杯目:人間ドックに行ってきた(後編)

52杯目
検査後に病院内の食堂で健康的なメシが出た。ビールはなかった。
神奈川県秦野市/竹田聡一郎撮影
(“チェキ” instax mini 8)
 
 

竹田 結果発表ー!

椎名 なんの?

竹田 人間ドックです。前回の続き。

椎名 おお。尿酸値はどうだった?

竹田 問題なかったです。僕は運動もするし、水もよく飲んでるから。いま舌打ちしませんでした?

椎名 してないよ。でも君もモノカキなんだから痛風は経験してもいいと思うな。レバーをもりもり食べなさい。

竹田 尿も肺も大腸も大丈夫だったんですよ。

椎名 面白くないな。

竹田 え? なんて?

椎名 なんでもないよ。でもまさか、オールクリアというわけじゃないだろ?

竹田 そうですね。担当は女医さんだったんですけれど、「竹田さんの場合、やはり問題はー」と。

椎名 いいぞいいぞ。なんだなんだ。

竹田 なんでワクワクしてるんですか。「内臓脂肪ですね」と。

椎名 そうだろうな。君のビールの飲み方は破綻してるよ。

竹田 鏡持ってきましょうか?

椎名 何て言われたの?

竹田 椎名さんも聞かれるでしょう。「1日にどれくらい飲みますか?」って。

椎名 あれは難しい質問だよな。健康のことを考えると正直に言うほかないんだけれど、つい小声になってしまう。

竹田 サバを読むと言っていいのか分からないけれど、気持ち少なめに申告したくなりますよね。でも仕方ないので白状しました。「缶ビール6-8本くらいです」と下を向きながら言ったら、「え? はっぽん!? 1日に?」と女医さんがカルテから目を離して驚いて僕の顔をまじまじと見つめてきました。惚れられたのかな。

椎名 バカだなあ。でも1日に8本とか飲んでるとゴミの日、すごいだろ。

竹田 はい。資源ゴミは週に1度なので毎週、結婚式で使えそうなくらいの量になる。

椎名 映画とかでよくある車につけてガラガラやるやつな。できるだろうな。

竹田 椎名さんは最近、瓶ビールでしょう。重いじゃないですか。

椎名 ゴミ出しは一枝さんがやってくれていたけれど、ある時息子に「自分が飲んで出たゴミなんだから自分で出せよなあ」と言われて、ぐうの音も出なかった。自分で出しているよ。時々、忘れるけれど。

竹田 ちょっと話はズレるけれど、酒飲み友達が「嫁にバレるから自室に空き缶を溜めておいて、見つからないようにゴミの日に出す技術がある」と話していて結婚て大変だなあと思いました。

椎名 君はビールの缶だけじゃないだろ?

竹田 そうなんです。飲んでる酒を切り替えますからね。女医さんに「そのあとは寝酒も兼ねてウイスキーロックですかね」と言おうと思っていたけれど、補足できるわけもなく。

椎名 気持ちはよくわかるけど。

竹田 口の中で「休肝日は作ってるんですけどね」とモゴモゴ言ってたら「結局、量ですから」と女医さんはピシャリ。

椎名 量なのかあ。

竹田 量らしいです。例えば週に一度、10杯飲むなら、毎日1杯ずつ飲んだほうがいいらしいです。

椎名 ええ、そうなの?

竹田 そうらしいです。適正飲酒というのがあってそれがビールで言うと、ロング缶1本なんですって。

椎名 いっぽん!?

竹田 僕も病院でまったく同じリアクションをしました。向こうは「はっぽん!?」って言ってましたけどね。

椎名 1日1本か。それはちょっと受け入れられないな。

竹田 ですよね。時々、「一杯だけな」とか言って店に行くじゃないですか。

椎名 絶対に一杯で終わらない。類似ケースに「軽く行くか」もあるな。

竹田 そうそう。だって乾杯したら終わりなんすよ。だったら飲まないほうがマシ。

椎名 飲まないと夜、ヒマだよな。

竹田 本当にそれ。でも、もうそれはアル中の兆候らしいです。

椎名 で、医者はなんだって?

竹田 とにかく量を減らしなさいと言われました。その説明の途中で「竹田さんのようにふくよかなタイプは体重が減ると数値も良くなるはずですから」とか、「ふくよかだとレントゲンにも脂肪肝が映る」とか、「ふくよか」を連呼されました。

椎名 そういう世の中なのかな。太ってるとか肥満とか表現すると怒りだす人がいるのかな。

竹田 そうなのかもしれませんね。気を使ってくれているのでしょうが、逆に恥ずかしい。「痩せろデブ!」とか罵られたほうが効果ありそうだけどな。

椎名 しかし、ロング缶1本は厳しいな。

竹田 もちろん運動量を増やしたり、食生活を考えたり、生活を改善すべきなんですけれどね。

椎名 運動したらむしろビールの量は増えるじゃない。

竹田 おっしゃる通り。どうしたもんか。

椎名 死活問題だな。ちょっとまじめに話そうか。

竹田 そうですね。池林房に行きますか。

椎名 一杯だけな。

竹田 うす。軽く行きましょう。

 

椎名誠: 作家。この夏は甲子園をちゃんと見ていたらけっこう面白いなと思った。高松商業はいいチームだったのでさぬきうどんを食いに行きたい。シンプルなぶっかけがいちばん好きだ。

竹田聡一郎:フリーライター。SNSに飽きてきた。秋に中期のソロキャンプ旅をやろうと思っているが、要所要所で友人がスポット参戦してくれないかなとも期待している。ひとりはさみしい。

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