51杯目:人間ドックに行ってきた(前編)
健康は宝です
神奈川県秦野市/竹田聡一郎撮影
(“チェキ” instax mini 8)
椎名 どこの写真なの?
竹田 実は夏の終わりに人間ドックに行きまして。本当に8月末だったので夏休みの宿題が残っているようでお盆くらいからちょっとユーウツでした。
椎名 あんなもんたいしたことないじゃないの。「次はそっちですよー」と優しい看護婦さんに指示されたとおりにハイハイと動くだけだ。
竹田 そんなもんですかね。でも椎名さん大病院で受けてるでしょう?
椎名 そう、大学病院ね。
竹田 だからスタッフも洗練されてて親切なんじゃないですか? 僕は庶民の病院ですもん。
椎名 そんな変わらないだろうよ。
竹田 じゃあ聞きますが検査着みたいのは何を着ますか?
椎名 ガウンみたいなのを着るな。
竹田 ガウン! シティホテルか! シャンパン出てくるんじゃないか。
椎名 出てくるわけないだろう。どこも一緒だろ?
竹田 いえ、庶民の病院は検査着という名のジャージです。ナイキでもアディダスでもアンダーアーマーでもありません。ノーブランドです。ノーブランドって言ったって無印良品じゃありませんよ。
椎名 落ち着きなさい。
竹田 そのジャージの色がまた、ね。
椎名 黒や灰色くらい?
竹田 当たらずも遠からずといったところですね。
椎名 なんで偉そうなんだ。何色なんだよ?
竹田 なんていうんですかね。あせた水色というか、くすんだ緑というか、中学校のジャージがいちばん近いイメージなんですけれど、あっちはもっと鮮やかな若さがある。あれは人間ドック色です。
椎名 なんだそれ?
竹田 僕も言ってて意味が分からなくなってきましたが、とにかく絶妙に微妙な陰気な色の検査着を着せられます。
椎名 そんなものせいぜい3時間くらいだろ?
竹田 そうなんですけどね、まあとにかく最初に検温して身長体重、血圧を測るんですけれど、オムロンの血圧計の名前が「健太郎」だった。幸先が悪い。
椎名 全国の健太郎さんに謝りなさい。
竹田 そうか、健太郎さんすいません。僕の言う健太郎とは、雑魚釣り隊のケンタローです。彼が担当編集になった初回の取材に遅刻し「下北沢の踏切で捕まってしまって」と言い訳したあの奇面組です。
椎名 そういや近々、雑魚釣り隊の取材が入ってたな。
竹田 そうですね。釣って飲んで酔いましょう。そのためには健康でいなくては! ということで人間ドックの続きです。
椎名 君の指摘は細かすぎるよ。いま、医療に携わる人はみんな大変なんだぞ。それでもみんな笑顔で対応してくれただろう。検査着がくすんだ色だからってそれがなんだ。我慢しなさい。
竹田 急に正論を言うのはずるい。
椎名 我ながらいいことを言ったな。もう一度、言おうか?
竹田 遠慮しておきます。でも確かにそうですね。胃カメラの時、すごい感謝しました。
椎名 バリウムじゃなかったのか?
竹田 はい。バリウムの場合、わかりづらいものやよくわからない異物が映っていたら結局、胃カメラになると言われたので腹をくくりました。
椎名 でも、胃カメラも最近は小さくなったし、体の力を抜いて技師に身を任せるだけでしょ。
竹田 それは言われましたけれど、「力を抜いてください」と言われて硬くなってしまうのは人情じゃないすか。
椎名 人情ではないぞ。君はちゃんと「寅さん」を見直しなさい。君の風貌は源公みたいなんだけどな。
竹田 誰が佐藤蛾次郎さんなんすか!
椎名 ただ横になってるだけだろ。
竹田 ああ、胃カメラの話に戻ったんですね。喉にカメラを突っ込まれるわけですから緊張するでしょう。
椎名 でもすぐ終わる。
竹田 遠くをぼーっと見るとか、唾液は飲まないとかいろいろコツはあるみたいですね。
椎名 鼻で吸って口で吐くんだよ。
竹田 そうそう。途中から実践したら楽になりました。看護婦さんに「そうです。呼吸が上手です」と褒められちゃった。
椎名 妙な褒められ方だな。
竹田 その看護婦さんはずっと背中を優しくさすってくれていて「ああ、この胃カメラが終わったらこの人にプロポーズしよう」と決めたくらいです。
椎名 したのかい? プロポーズ。
竹田 いや、終わってうがいしてたら、もういなくなってました。また会いたいけれど、胃カメラはしばらく嫌だなあ。
椎名 それで検査結果はどうだったの?
竹田 次回予告! 女医に「あなたは○○○○です」と連呼されるの巻。
椎名 バカモノ、かな。
椎名誠: 作家。この夏は甲子園をちゃんと見ていたらけっこう面白いなと思った。高松商業はいいチームだったのでさぬきうどんを食いに行きたい。シンプルなぶっかけがいちばん好きだ。
竹田聡一郎:フリーライター。SNSに飽きてきた。秋に中期のソロキャンプ旅をやろうと思っているが、要所要所で友人がスポット参戦してくれないかなとも期待している。ひとりはさみしい。