50杯目:浮島食堂とにぐライス
ぴょんぴょん舎の冷麺
岩手県盛岡市/椎名誠撮影
(“チェキ” instax mini 90 ネオクラシック)
椎名 前回、「メシはシンプルなほうがいい。肴はあぶったイカでいい」という話をしたよね?
竹田 あぶったイカの話はしていません。椎名さんが何かとそのフレーズを持ち出してくるだけです。
椎名 そうか。それの続きをしたいんだよ。
竹田 あぶったイカの? マヨネーズと七味で食べるとうまいとか。
椎名 なんでそんな話をしないといけないんだ。
竹田 あんたが言い出したんでしょうが。
椎名 東北の話をしていたら思い出したんだ。
竹田 うまいもんの話ですか。いいですね。今週、ウキダマの陸前高田大会もあるみたいです。
椎名 おお、みんな元気かな。窓から港が見えりゃいいな。
竹田 八代亜紀から一度、離れましょうか。で、東北のシンプルなうまいもんってなんすか?
椎名 にぐライスだ。
竹田 肉ライス?
椎名 違う! に・ぐ! 地元の人はそう言うの! 肉ライスだと普通だけれど、にぐライスだとすごいうまそうじゃないか。
竹田 そういうもんですか? どこのものなんですか?
椎名 宮古。浮島食堂という店だ。
竹田 どんな食べ物なんでしょう。
椎名 そのまんま。丼めしの上に肉。
竹田 ステーキみたいな感じの肉ですか? あるいは牛丼タイプですか?
椎名 どちらでもない。生姜焼きとラーメンのチャーシューの間くらいのにぐをのっけるだけ。
竹田 確かにシンプルですねえ。肝心のお味は?
椎名 脂はあるんだけど、妙にさっぱりしているんだ。これとカレーライスをセットで食うの。
竹田 え、炭水化物ばっかりじゃないですか。
椎名 うん、でも地元の人はみんなそうしてた。
竹田 肉ライスは小さい腕とかなんですか?
椎名 いや、丼なんだって。でも200円くらいだった気がするな。
竹田 いくらなんでもそんなに安くないでしょう。
椎名 本当なんだよ。安くて大きくてうまいから、愛されてたんだよ。
竹田 宮古のソウルフード。あ、ほんとだ。調べたら肉ライス220円。カレーも400円だ。
椎名 そうなんだよ。老若男女が集う素敵な店だったんだぜ。
竹田 さっきからなんで過去形なんですか?
椎名 震災で流されちゃったんだ。
竹田 ああ、残念です。どのエリアにあったんですか?
椎名 磯鶏という、少し入江になったあたりだね。地震も津波も怖い。
竹田 本当ですね。宮古にもでっかい堤防ができて、港湾エリアが整備されていましたね。
椎名 うん、あれで安全になったとしたらいいことだけれど、海に寄り添ってきた街だから、場所によっては「そうかあ、ここから海は見えなくなってしまったのか」とハッとすることもあった。
竹田 すごくよく分かります。テレビのドキュメンタリーで「安全なんて別にいらないから、海が見えたほうがいい」と言っていた方がいました。「生きるとは何か」みたいな話ですね。
椎名 そうだなあ。
竹田 ともかくまた東北に行きたいっす。青森の煮干しラーメン、ここ(21杯目)でも言及した秋田のきりたんぽを食わなければ。
椎名 あー、山形はワンタンメン、岩手はぴょんぴょん舎の冷麺だな。
竹田 宮城はせり鍋かなあ。福島はなんだろう。
椎名 こぶし館のカツ丼だな。
竹田 ああ、アザキ大根の高遠蕎麦もうまいんだよなあ。ビール大瓶のあとはお酒ですねえ。
椎名 いいではないか。近々、行こうぜ。
竹田 東北は温泉もあるし何度いっても、いつも楽しい気持ちになれますよね。定期的に遊びに行きましょう。
椎名誠: バカ旅サケ作家。最近、朝メシの重要性に気づいた。生野菜モリモリだかんな。
竹田聡一郎:スポーツ、旅などを中心に取材するフリーライター。カイピリーニャを飲みまくる夏。