49杯目:暑いから北の話をしよう
深い森が多いのも良き
岩手県遠野市/竹田聡一郎撮影
(“チェキ” instax mini 8)
椎名 言ってもしょうがないけれど、暑いなあ。
竹田 暑いっすね。でも実は僕はこの夏、北海道に中期的に行く仕事があって、割としのげています。
椎名 やり口が汚いぞ。
竹田 なんですか、そのイチャモンは。仕事ですもの。じゃあ椎名さんも一緒に行きましょうよ。
椎名 行きたい気持ちはあるんだけど、暑い中、空港行くのめんどくせえなとか、飛行機に乗るの嫌だなとか考えると億劫になっちゃうんだよ。歳をとったもんだ。
竹田 5月の連休に東北に行ったじゃないですか。その時は「やっぱり旅先の酒はうまいなあ」とご満悦で、ワインも日本酒もズバズバ飲んでましたよ。
椎名 うん。出かけるのは面倒でも行くとやっぱり楽しいんだよね。詳しくは集英社の連載(「失踪願望。」)に書いたけれど、同行してくれたのは気心の知れたメンバーだったし、いい旅だった。
竹田 行く店、飲む酒、会う人、みんな良かったですね。
椎名 古い友人にも会えたし、その子どもが生まれていたりして、豊かな時間の経過も感じた。欲をいえば、昔から酒をご馳走してくれたりメシを作ってくれたりと、お世話になったおじいおばあにも会いたかったな。東北の女性は年輩になると「オレ」という一人称を使う人がいて、カッコいいんだ。
竹田 確かにおばあに「オレの作った漬物、食べるか?」と聞かれたら、絶対に食べる。うまそうな気がします。
椎名 言動に説得力が出る気がする。
竹田 椎名さんからみた東北の人ってどういうイメージなんですか?
椎名 そんなに一般的なイメージとは変わらないんじゃないかな。話好きで我慢強い。時々、頑固な人もいるけれど、それも強さや信念である場合も多いよね。宮古で世話になった高橋政彦君のお父さんやお母さんがまさにそういう方々で、取材対象としても被写体としても魅力的なんだ。
竹田 次回はぜひお会いしたいです。
椎名 優しい方々だよ。昔から宮古に行くとお父さんは「すぐそこだから」と帰りは盛岡まで送ってくれたんだ。
竹田 今は自動車専用道路が走ったけれど、昔は2時間くらいかかったのでは?
椎名 そうなんだよ。でも東北の人にとっては「すぐそこ」なんだよな。まあ、こっちに気を遣わせないためにそう言うのかもしれないけれど。
竹田 と言っても、盛岡ー宮古って80kmくらいありますよ。東名高速でいうと御殿場の手前です。ちょっと失礼な言い方になりますけれど、東北とか北海道の人って縮尺感覚がぶっ壊れてますよね。
椎名 うーん、我々とは確実に違う尺度で生きていることは確かだな。
竹田 北海道でいえば根室だったかな。「ジャスコ釧路店まで110km」という看板があるらしいんですよ。
椎名 ううむ、やっぱり「すぐそこ」なのだろうか。
竹田 根室ー釧路って、感覚的には大洗ー都心くらいっすよ。まさに「試される大地」ですなあ。
椎名 君は北海道によく行っているけれど、北海道の人はどうなの?
竹田 世話好きで優しい人が多いですね。最初は緊張していたり警戒されたりもするけれど、一度、話をすると「また来いよー」って言ってくれて。僕は図々しいので実際にまた行くことが多いんですけれど……。
椎名 うん、そうだな。君の図々しさは全国レベルだよ。胸を張りなさい。
竹田 ううむ。それはまあいいとして、本当にもう一度、遊びに行くと歓待してくれる。「こんなものしかないけれど」とジンギスカン、ジャガイモ、ニシン、イカの塩辛なんてのものを出してくれるんですけれど、どれも本当にうまい。北海道にまずいものなんてないんじゃないかな。
椎名 ううむ、結局、感動するのはシンプルなものなんだよな。
竹田 確かに「ボルドー産フォアグラのテリーヌ、トリュフを添えて」に感動したことない。というか食ったことないっす。
椎名 何も添えなくていいんだよ。添えるやつはバカだよなあ。ふかしたジャガイモ。手が切れそうなくらいに細く切った生のタマネギ。それだけで最高の肴じゃないか。
竹田 ふふふ、また来月、北海道に行くんです。
椎名 ジャガイモとタマネギ買ってきてくれよ。
椎名誠: バカ旅サケ作家。最近、朝メシの重要性に気づいた。生野菜モリモリだかんな。
竹田聡一郎:スポーツ、旅などを中心に取材するフリーライター。カイピリーニャを飲みまくる夏。