45杯目:シーナ的最後の秘境

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自宅にある世界のガラクタ的お土産
東京都中野区/椎名誠撮影
(“チェキ” instax mini 90 ネオクラシック)

 

竹田 前回、突発的質問コーナーをやったじゃないですか。

椎名 うん。面白かったけど、くだらなかったな。

竹田 生産性は確かになかったかもしれません。なのでもうひとつ、椎名誠の根幹に触れる質問を残してあるんです。

椎名 聞かせてもらおうか。

竹田 「世界を飽きるほど旅してきたシーナさんですが、ここだけは行っておきたかったという国や場所はありますか?」ですって。編集者の齋藤海仁より。

椎名 おお、海仁は元気?

竹田 僕もしばらく会えてないです。でも、コロナでいろいろ大変そうではありますが、元気そうですよ。東京湾でアジ釣ったり、鹿嶋沖でマダイ釣ったりしているとのこと。釣りだけには行っているみたいですね。

椎名 そうか、彼らしいね。そろそろ雑魚釣り隊も集合したいよな。

竹田 御意。で、海さんの質問の行っておきたかった場所とは?

椎名 キルギスだね。

竹田 おお、キルギス共和国。その心は?

椎名 NHKのドキュメンタリーやシルクロードシリーズなどを見ていて、ずっと「美しい国」というのは聞いていたんだよね。「シルクロードでいちばん美しい地域」と断言する人もいる。

竹田 ふんふん。

椎名 広い草原を持つ馬術の国であることは個人的に美しいと思うポイントだね。バカでかい湖も気になるし、美しい女性も多いと聞いた。

竹田 いいではないですか!

椎名 シルクロードの交易路であって、ソ連に組み込まれていた経緯もある。その国がどのような文化を持って生活を続けているのか。何を食ってどんな酒を飲んでいるのか。今でも興味があるよ。

竹田 行く機会はなかったんですか?

椎名 少し前だけれど、あったんだよ。旅行関係の本を扱う出版社の企画で、今回の海仁の質問と同じようなことを聞かれて、キルギスと答えた。

竹田 実現しなかったんですか?

椎名 ちょうど情勢が不安定になってしまって、だからこそ行ってみたかった部分もあったんだけれど、リスクもあるので残念ながら断念した。海外取材ではそれが唯一の心残りかもしれないなあ。

竹田 椎名さんって若い頃、職業作家になる前から、楼蘭に憧れていて、ある意味ではそれをモチベーションに作家活動をしてきたと思うんです。間違っていたらごめんなさい。

椎名 いや、間違ってないよ。続けてくれ。

竹田 楼蘭への旅、そのあたりは『砂の海 楼蘭・タクラマカン砂漠探検記』に詳しいですけれど、そこへ行ったことでまた次なる旅を求めるようになった。例えばグレートバリアリーフだったりパタゴニアだったり。それが次々に実現して「旅する作家」というイメージがどんどん作られていった。

椎名 そうかもしれないね。あの頃に行ったそれぞれの土地で見たものは、その時に書いたことだけでなく、のちのち何かにつながってゆくような自分の血肉になったと思う。でも、当時は単純に「あそこ行ってみたいなあ」とか「え、そんなところに取材で行けるの? 行きます行きます」と片っ端から旅していただけだぜ。

竹田 あんまり時代の話は言い訳っぽいからしたくはないんですけれど、それでも情報ばかりが先行する現代に生きていると、椎名さんのように高山も深海も砂漠も氷河も行った人って旅に対して食傷気味になると思うんですよ。

椎名 うん。歳をとったこともきっと関係しているけれど、今は「行きたい!見たい!」という欲はほとんどない。

竹田 でも、そんな椎名さんが「キルギス」っていま即答するって、実はすごいことで、そこには何があるのか気になってきました。

椎名 いいなあ、それ。行ってきてくれ。そしていろいろ聞かせてくれよ。

竹田 一緒に行きましょうよ。

椎名 嫌だよ。でも、普通はどうやって行くの?

竹田 日本からの直行便はないようなので、ソウルやカザフスタンのアルマトイあたりの経由が一般的ですな。でも、ここまでこうやって話してきた流れで「ソウル経由で3泊4日で行ってきましたー。イシク・クル湖でっかかったですよー。ラグマンはビールにも合いましたー」じゃ、あまりにバカみたいだし、椎名誠のしてきた旅への冒涜なのでは、とすら思います。

椎名 となると、国境越えか。

竹田 いいっすねえ。シーナの旅を引き継ぐ、というとおこがましいですが、カシュガルあたりから陸路。というのは正着手という気がします。

椎名 いいなあ。昔は人の旅の話を聞くと「いてもたってもいられない。明日、行こう」となって実際に出かけたりもしたけれど、今は人の旅の話を肴にゆったりウイスキーを飲むのも楽しいんだ。歳をとったんだなあ。

竹田 発売中の『シルクロード・楼蘭探検隊』の宣伝キャッチコピーに、わたしの旅ブックス編集部が「椎名誠の旅の原点がここにある」という一文をしたためていたんです。

椎名 そうなんだ。うれしいね。

竹田 いい文言だなあ、と思っていたんですけれど、今日、椎名さんと話をしていて「原点」だからこそ、そこからまたシルクロードを西に進んで行くのは楽しそうだなあと感じた次第です。キルギス、真剣に検討してみます。

椎名 現地の酒をお土産に1本、頼むよ。

椎名誠: バカ旅サケ作家。近著『シルクロード・楼蘭探検隊』(産業編集センター)が好評発売中。この夏は瓶ビールをグラスに注ぐトクトク音を極めたいと思っている。

竹田聡一郎:スポーツ、旅などを中心に取材するフリーライター。そろそろ海外取材もできそうだなと企んでいる。北米カーリング、カタールW杯が狙い目。あるいは両方か!

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