『遺言未満、』
目黒 それでは傑作本にいきましょう。『遺言未満、』。『青春と読書』の2018年1月号から2019年9月号まで連載されて、2020年12月に集英社から刊行されたエッセイ集ですが、これはなんといってもタイトルがいいね。
椎名 このタイトルは編集者が付けた。
目黒 素晴らしいよ。
椎名 WEBの「失踪願望。」と同じ担当者だよ。
目黒 ちょっと待って。あの「失踪願望。」も編集者がつけたタイトルだと言ってたよね。すごいなその人。そうか句点(。)と読点(、)を対比させてるんだ。
椎名 ?
目黒 WEB日記のタイトルは「失踪願望。」と最後に句点(。)が付いていて、この『遺言未満、』のタイトルの最後には読点(、)が付いているでしょ。「失踪願望」と「遺言未満」でもいいのに、なぜ句点と読点を付けるのか。閉じたものと開かれたものの対比かな、と思ったわけ。それとも、閉じようとする心の動きと、繋ごうとするゆらめきの対比かな。いやあ、奥行きのあるタイトルで素晴らしいよ。
椎名 担当編集者に伝えるよ(笑)。
目黒 中身もいいんだよ。まず、すごいのが「お骨佛」。すごいのが世の中にはあるんだね。人の骨を細かく砕いて、それで仏さまをつくってしまうという発想が、想像を絶している。この取材に行く前から椎名は知ってたの?
椎名 一心寺は、大阪では有名だよ。ひとつの仏さまを作るのに10年。
目黒 もともとは明治20年に始まったと。太平洋戦争でそれまでに作った6体が燃え、残った遺灰を集めて戦後すぐに7体目をつくって、それから10年に1体、どんどん増え続けている。
椎名 だれでも納骨出来るので人気を呼んでわかりやすくいうと「骨であふれかえってしまった」わけだね。それで骨を細かく砕いて数万人の骨による仏さまをつくったと。
目黒 その仏さまがどういうものであるのか、想像しにくいと思われるので、この本に入っている写真を一葉、載せてみます。すごいでしょ。この仏さまが人の数万人の骨で出来ているなんて想像できますか。
椎名 宗派を問わず、檀家であるなしも問わず、というのが素晴らしいだろ。
目黒 あとね、びっくりしたのが「ハイテク納骨堂」を紹介する項。土地が限られている日本では、納骨堂が増えていると。で、新宿南口のバスターミナル「バスタ新宿」の近くにある納骨堂「新宿瑠璃光院白蓮華堂」の写真がこの本に掲載されているけど、これ、その前を通った人が見ても、これが納骨堂とはわからないよね。
椎名 これもその写真を載せよう。
目黒 この内部がどうなっているかは、椎名が書いているので、この本を読んでいただくことにして。近代的なビルの近くにこういう納骨堂があるというのは、まさに現代だね。
(この対談は2022年6月14日に行われました)
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