『続 家族のあしあと』
目黒 はい、それでは『続 家族のあしあと』です。『すばる』の2017年9月号から2019年7月号まで隔号連載し、書き下ろしを一編加えて、2020年10月に集英社から刊行と。椎名の少年時代を描く小説ですね。椎名少年が小学校を卒業して中学に入るところで終わっている。あとがきを読むと、これでおわりにすると。これ、結構長いあとがきだなあ。
椎名 そうだね、もう続きはなし。
目黒 岳物語も、ガク少年が小学校を卒業して中学に入るところで終わっているので、これも同じところで終わると、あとがきに書いてある。これは面白かったので、もう終わりなのかと残念だった。ええと、幾つかあるんですが、これからいこうか。
椎名 なに?
目黒 脱脂粉乳が美味しかった、というくだり。これには驚いた。戦後の一時期、日本中の学校給食で脱脂粉乳が出ていて、我々世代はそれを飲んでいたんだけど、あれを美味しいと言った人を初めて見たよ。くさくてまずくて、飲むのがきつかったという人ばかりだよ。飲まないと先生に怒られるから鼻をつまんで飲んでいた。
椎名 そうかあ。おいしかったぜ。
目黒 子供のころから逞しかったんだ。いやはや、びっくりしました。あとは「犬を散歩させるときはクサリをつけなさい」と言われるくだりで昔のことを思い出した。おれが小さいころは、東京でも犬にくさりなんてつけていなかった。だから夜中はそこらじゅうを駆けまわっていたよ。朝になると帰ってきて、庭の隅にちょこんと座っている。
椎名 昔はそうだったよなあ。
目黒 ただ、椎名の住んでいた幕張と、俺がいた池袋の違いは、生ゴミの捨て方。この『続 家族のあしあと』では、生ゴミは庭に穴を掘って埋めてしまう。そうすると、1か月くらいで生ゴミは腐敗し、土と同化するからエコだよね。でも池袋ではそんな土地がないから穴を掘れない。
椎名 どうやって捨ててたんだ?
目黒 各家に一つずつ、コンクリート製のゴミ箱が表にあった。前面はスライドする木で出来ていて、そこを開けて区が回収していく。生ゴミをそのまま捨てるわけだから不衛生きわまりなく、東京オリンピック直前にはいっせいに姿を消したけど。
椎名 昔の東京の写真には、そのコンクリート製の生ゴミ箱、写っているな。
目黒 それと、つぐも叔父に息子がいたことをこの小説で初めて知った。つぐも叔父は椎名の小説によく出てくる人物だけど、居候というか単身者の雰囲気があったから、家族がいたんだと感慨深い。
椎名 離婚して、賢三くんは母親と一緒に暮らしていたんだ。
目黒 賢三くんというのは、つぐも叔父の息子で、この『続 家族のあしあと』では賢三くんを連れて、つぐも叔父が椎名の家の庭に移り住んでくる。
椎名 賢三くんはおれと同い年だったな。
目黒 話は飛ぶんだけど、里美饅頭って覚えてる? お母さんが「また今日も里美饅頭、買ってきたわよ」と帰ってきて、みんなが食べるシーンがある。なんの説明もなく出てくるので有名な饅頭なのかなと思ったけど。
椎名 市川の饅頭だな。よく覚えてるよ。
目黒 じゃあ、げんこつせんべいっての出てくるんだけど、これも覚えている?
椎名 それは覚えていない。
目黒 げんこつと言うんだから固いせんべいかと思うんだけど、記憶って面白いね。覚えているものと忘れるものがきれいにわかれている。
(この対談は2022年6月14日に行われました)
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