40杯目:『アド・バード』半世紀
謎の風景やオブジェからSFがはじまることもある
千葉県千葉市/椎名誠撮影
(“チェキ” instax mini 90 ネオクラシック)
竹田 今年で50年だそうです。さて、なんの話でしょうか?
椎名 もったいぶるなよ。沖縄の話?
竹田 ブブー。ビールおごってください。
椎名 勝手に飲めよ。
竹田 そうします。でも本土復帰50周年は考えさせられる機会でもあるから、昨夏に文庫化された『宝島』(真藤順丈/講談社文庫)を再読したのですが、やっぱりすごい作品だなあ。
椎名 君もどんどん書きなさい。
竹田 本当ですね。毎日、原稿を書き続けている椎名さんの前で「忙しい」なんて言いたくないんですけれど、目の前の締め切りをこなすだけの日々っす。真藤先生のように自分がいちばん書きたいものにエネルギーを費やすことができてないんですよね。自分が嫌になります。ウイスキーあります?
椎名 バーボンならあるよ。
竹田 いただきます。で、50年なんですけれど、『アド・バード』(集英社)です。
椎名 そんなに経つの?
竹田 えーとですね、ちょっと補足が必要なんですけれど、『アド・バード』の連載を「すばる」ではじめたのが1987年、単行本刊行は1990年なんですよ。椎名さんは46歳です。
椎名 そのくらいだったか。映画を撮ってたころ?
竹田 そうですね。同じ年に四万十川で『ガクの冒険』のロケをして、公開もこの年ですね。
椎名 いちばん、慌ただしい時期だったかもな。目黒に「ちゃんと作家になりたいなら映画はやめておけ」と言われたのは覚えている。
竹田 その目黒さんが、この旅する文学館の「椎名誠の仕事 聞き手 目黒考二」の『アド・バード』の項で説明してくれているので割愛しますが、『アド・バード』の原型は「アドバタイジング・バード」という短編だったそうですね。これが50年前の1972年。椎名青年は28歳です。
椎名 サラリーマンしてた頃か。ちょうど今、漫画でやっているもんな。
竹田 『黒と誠』ですね。そのうち『アド・バード』もリンクすると嬉しいな。目黒さんとの話で言うと、椎名さんが書けなくなって「もうあとが続かない、どうしたらいいんだ」と相談した時に「これまでのことを全部忘れて、全然関係ない話を書けばいい。絶対なんとかなる」というアドバイスもすごいですね。
椎名 うん。でもあれには助けられたな。思えばあのあたりから俺の粗製濫造作家人生ははじまったのかもしれない。
竹田 書き散らし作家。
椎名 返す言葉はない。
竹田 それでですね、『アド・バード』を再読したのです。インターネットの普及によって広告のありようが変わった現代に読むとまた違った面白さがありますね。
椎名 いいこと言うじゃないか。もっと飲みなさい。
竹田 僕はやっぱり鉄錆を食い酸を吐く「ワナナキ」がいちばん嫌なんですけれど、ああいう生き物の生態、そのディテールはどう突き詰めていくのか。
椎名 SFってサイエンスフィクションの略で、飛躍した嘘の世界という部分もある。
竹田 ふんふん。
椎名 その一方で、ファンタジーと違うのは立証責任がないといけないと俺は考えているんだ。
竹田 なるほど。
椎名 あれは映画だけど、例えば『スター・ウォーズ』シリーズで轟音と閃光が宇宙を包む戦闘シーンは100パーセントのウソ。真空では音は聞こえないし、閃光も絶対に発生しない。
竹田 ほうほう。
椎名 もちろんエンターテインメントとして楽しむぶんにはいいんだけど。
竹田 なるほど。空想というよりも、あくまで科学の発展という根幹がシーナSFにはあると。
椎名 いいこと言うな。飲みなさい。
竹田 ありがとうございます。でも50年経ったいまの学生が『アド・バード』読んだらどんな感想を抱くのか聞いてみたいっすね。夏休みの読書感想文とか書いてくれないかな。
椎名 それはいいな。俺も読みたい。
竹田 ということで全国の学年主任のみなさま、課題図書はアニバーサリーを迎えた『アド・バード』をぜひ!
椎名誠: バカ旅サケ作家。6月は蒸し暑いからビールがことさらうまいんだ。
竹田聡一郎:フリーライター。鰻と河豚を緊張せず食べにいける身分になりたい。