37杯目:『黒と誠』を読み込んだ

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竹田は5本食べた
東京都新宿区/椎名誠撮影
(“チェキ” instax mini 90 ネオクラシック)

 

竹田 元気ですかあ? 五月病を患ってないですかぁ?

椎名 元気にしているよ。でも俺は冬季鬱があったりするから、気持ちは分かるけどな。君はいつも元気そうだね。

竹田 いや、それが腹減ってるんですよ。

椎名 ちょうどカニの足があるぞ。

竹田 これカニカマでしょ。食べますけど。

椎名 で、今日はなんだい?

竹田 双葉社が運営する文芸サイト「COLORFUL」(カラフル)掲載の『黒と誠』(作画/カミムラ晋作)を毎月、楽しく読んでるんです。

椎名 ああ、俺も読んだよ。

竹田 「本の雑誌」誕生秘話ですから、とても興味深い。毎月10日と25日の更新日が楽しみではあるんですが、まず言いたいことがありまして。

椎名 ん? あんまりいいことではないパターンだな。

竹田 ご明察。カニカマ食いますか?

椎名 いらないよ。

竹田 作品の中で椎名さん、カッコ良く描かれすぎじゃないですか? ネクタイこそしてないけれど、ジャケットなのか背広なのか着ちゃって、いかにも好青年だ。

椎名 ふむふむ、なかなか忠実に描かれていると思うよ。キチンと取材もしてるし。

竹田 第2話では沢野ひとしさんがなんだかよく分からないけれど、ストアーズ社にふらっと来るくだりがあるんです。その部分は沢野さんのあの飄々とした感じが描かれていると思います。

椎名 ますますいいじゃないか。

竹田 でも椎名さんに関しては「スポ根系の正しい主人公」みたいな感じが過ぎるんですよね。沢野さんに「挨拶はちゃんとしろ」とか言っちゃって。

椎名 君はいちゃもんが多いね。

竹田 あんなに爽やかじゃなくてもっと濁った目で酒飲みながら編集作業をしてたに違いない。

椎名 それはまあ、否定できない。

竹田 服装のくだりに戻ります。改めてこれまで更新された3話を読み返したんですけど、動かぬ証拠を発見したんですよ。

椎名 なんだっていうんだ?

竹田 椎名さんの全身が描かれていないんです。もっと言うと足元が意図的に切られている。これはつまり下駄か草履で出社してたってことなんですよ明智くん。

椎名 使い方を間違ってるぞ。

竹田 じゃあワトソン君。とにかくあなたは濁り目不良の凶悪会社員だったということです。カミムラ晋作先生には椎名さんに遠慮せず、無頼なシーナ青年を描いてほしいというのが僕の願いです。

椎名 でもあれは目黒(考二)の話とも言えるからな。

竹田 それは本当にそうですね。なんせ『黒と誠』だし。そして、目黒さんから語られる椎名さんはいろいろなところで読めるけれど、椎名さんから語られる目黒さんの性質というか狂気は貴重かもしれません。

椎名 やっぱり目黒も普通とは言い難いよな。

竹田 僕らシーナ読者の多くは「釜炊きメグロ」のイメージが強いんですけれど、例えば藤代三郎名義で出した 『戒厳令下のチンチロリン』(角川文庫)を読むと、目黒さんの深淵を覗いた気になるんです。一方で本名の目黒考二で出した『昭和残影 父のこと』(角川文庫)の粘り強い筆致と取材に触れるとこの人の稟質、というと大袈裟かもしれませんが、本当の顔を突き止めたくなるんですよね。

椎名 お、難しい言葉知ってるな。カニ食うか?

竹田 カニカマでしょ。食いますけど。

椎名 そんなの本人に聞いたらいいだろ。

竹田 いつ電話しても騒がしいところにいて「ちょっと今は立て込んでるから」と。

椎名 きっと競馬場だろうな。でもコロナで最近は行ってないんじゃないかな。

竹田 じゃあ電話してみます。ちょっと話はズレるかもしれませんが、雑魚釣り隊に田中ベンゴシいるでしょう。

椎名 馬鹿な弁護士、通称「バカベン」な。木村が昭和バカベンで、彼は平成バカベンだな。

竹田 それはキャッチーで面白いっすね。今度、対談してもらいましょう。その平成が目黒さんに時々、競馬に連れてってもらうんですって。

椎名 へえ。意外な接点だな。

竹田 その時、目黒さんはキャリーケースを転がして登場するらしいんです。

椎名 東京競馬場とかだろ?

竹田 そうですね。府中とか、中山競馬場のある船橋くらいの近場なんですけれど、大荷物で出現するので、平成ベンゴシが「何が入ってるんですか?」と聞くと、すごい量の資料、つまりお馬さんの血統をはじめとしたデータをどっさり見せてくれたって。

椎名 やっぱり異常だよなあ。

竹田 その狂気が『黒と誠』で引き続き、語られるのを楽しみにしてます。

椎名誠: バカ旅サケ作家。五月場所は若隆景の快進撃がまた観たい。

竹田聡一郎:フリーライター。ビールと広島カープとシベリアンハスキーが好き。

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