36杯目:哀愁の町に何が降るというのだ。

36杯目

沢野ひとしとも遊んだ幕張の海岸
千葉市美浜区/椎名誠撮影
(“チェキ” instax mini 90 ネオクラシック)
 
 

竹田 本の雑誌の新連載「哀愁の町に何が降るというのだ。」を読みました。

椎名 ありがとう。楽しい原稿だもんな。

竹田 本の雑誌社の公式SNSで「今回の主役は……なんと……沢野ひとしだ!」という紹介がされていましたが、確かに沢野さんのスピンオフが始まるとは予想外でした。

椎名 彼は俺の周囲でも飛び抜けて特異的奇人なので書きやすいし、読む人も喜んでくれる。

竹田 第1回から暴力の匂いがあって、一風変わったピカレスクなのかな。とはいえ、どういう物語にも化けそうな雰囲気はありますね。『哀愁の町に霧が降るのだ』(情報センター出版局ほか)をもう一度、読まなければ。

椎名 「哀愁の町」で書けなかったことは実はけっこうあって、事情があって書かなかったこともあれば、単純に忘れていたこともある。沢野のエピソードはその両方かもしれない。もう今は怖いもんはないので、どんどん書いていこうと思っている。

竹田 「おむすびちゃん」や「目ぐすりちゃん」などなど、ちょっと凡人の僕には想像もつかない落書きを教科書に書くくだりがあるじゃないですか。

椎名 うん、変だよな。

竹田 変です。沢野さんってぶっちぎりの文化系なんですよね。

椎名 文化系という言葉が当てはまるのかな。あれは系統ではないな、強いて言うなら沢野系。

竹田 なんか怖い言葉だな、沢野系。その沢野さんと、番長気質で荒くれで短絡でロクなもんじゃない椎名さんがなんで仲良くなるのか。そこがずっと不思議なんです。本文中にありましたが、初対面で「キミ」と呼ばれたら、椎名さんは「うるせえ。何がキミだ、お前!」と殴ってしまって、それでおしまいのような気がします。

椎名 それは時々、指摘される。

竹田 でしょう。他の主要登場人物でも法曹界に進む将棋や落語が大好きな木村(晋介)先生や、末期的活字中毒の目黒(考二)さんなどなど、どちらかといえば文化系の方が多い。どうして荒くれシーナと仲良くなるんだろう。

椎名 何度も荒くれとか言うなよ。

竹田 いい意味で、です。いい意味で荒くれ。

椎名 そんないい意味があるかよ。でも、そのあたりの謎が今回、はっきりするかもしれないような気もするけれど、明日はどうなるか誰にも分からない。

竹田 ううむ、実は何も考えていない可能性もあるな。ともかく次号を楽しみにしています。

椎名 ありがとう。

竹田 ところで、いくつか資料を探したりしないといけなかったので、久しぶりに池袋のジュンク堂に行ったんですよ。そこで「本の雑誌」も買ったのですが、あそこの3Fの文芸フロアには「本の雑誌」関連の棚があるんですね。

椎名 そうなのかあ。それはすごいな。

竹田 もちろん椎名さんの書籍もありましたし、沢野さんの本、目黒さんの本なども並んでいました。ファンにはたまらないフロア展開です。2020年に発売された沢野さんの『ジジイの片づけ』(集英社クリエイティブ)は、まだ動いて(売れて)いそうですね。

椎名 同世代の心情などを描いていて、けっこう原稿が上手なんだよな。

竹田 単なる整理整頓や断捨離としての本ではなく、あえて単純な「片づけ」という言葉を使って解釈を広げているのも勉強になります。ご本人は「10代からやっている山登りが片付けの原点」とおっしゃってますね。

椎名 どういうこと?

竹田 登山には絶対に使うものと不要なものがはっきりしているので、必要最低限なものを見極める能力が養われたという意図だった気がします。

椎名 なるほど。

竹田 沢野さんと一緒に登山に行った話も、まだまだ出てきそうですね。

椎名 そうか、そうだな。

竹田 この「最近のシーナ」でも以前(21杯目:大雪ですね)八ヶ岳の話をしていただきましたが、椎名青年と沢野青年の雪山紀行とか、面白そうですね。

椎名 ふたりとも素人だったからな。よく死ななかったよ。

竹田 哀愁の町に何が降るのか。あるいは町を飛び出して山や海に何か降るのか。楽しみにしています。

 

椎名誠: バカ旅サケ作家。五月場所は若隆景の快進撃がまた観たい。

竹田聡一郎:フリーライター。ビールと広島カープとシベリアンハスキーが好き。

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