35杯目:富山イカキャンプ顛末

35杯目写真

浜辺でスルメイカを焼いた
富山県富山市/竹田聡一郎撮影
(“チェキ” instax mini 8)

 

椎名 そういやキャンプはどうだったんだよ。

竹田 おお! よく聞いてくれました。長い話になりますがいいですか?

椎名 じゃあ、やめとこう。

竹田 まあそう言わず。座ってビール飲んでくださいよ。

椎名 どこ行ったんだっけ?

竹田 富山です。富山湾沿岸に押し寄せるホタルイカを掬うのです。

椎名 あれは産卵のためだっけ?

竹田 そうですね、産卵のために海岸近くに来て、あるいは産卵を終えて力尽きて海岸に打ち上げられるようです。雑魚釣り隊で行ったじゃないですか。『おれたちを跨ぐな! わしらは怪しい雑魚釣り隊』(小学館)に収録されているはずです。

椎名 うん、楽しかった。最後に青く光るのが不思議だけど、かわいらしいよな。

竹田 神秘と言っても大袈裟ではないですよね。あの光を見るため、ボイルして生姜醤油で食うため、片道400kmを走破したわけです。

椎名 車で行ったのかあ。誰が行ったの?

竹田 雑魚釣り隊のバカ数名ですね。歌うアフロシェフ、ザコ。ドレイ頭太陽。名古屋から天野も来ました。彼は痩せるために酒をやめたのに、さらに体重が増えてました。

椎名 で、獲れたの?

竹田 焦らない焦らない。ホタルイカは新月の夜に湧くと言われているんですね。

椎名 湧く?

竹田 シーズンはだいたい3月から5月なのですが、その間、1シーズンに5-6日、海面がホタルイカで埋め尽くされて、目をつむって網を振っても獲れる日があるらしいのです。そういう状況を当地では「湧く」と呼ぶのですが、実は僕はホタルイカに魅せられて富山湾に5度ほど突入しているのですが、まだ「湧く」や「爆湧き」を経験したことはないんです。

椎名 波打ち際が青く染まるのがそれか。なんかの写真でみたよ。

竹田 はっきり分からないらしいのですが、ホタルイカは月明かりを頼りに自身の位置を把握している説があるようで、月の出ない新月は迷子になるらしいのです。

椎名 迷子を捕獲してむさぼり食うのか。

竹田 言い方! とにかく今年は4月1日が新月だったんですよ。だいたいやつらは深夜から明け方にかけて湧くので、日付が変わった僕の誕生日である4月2日にちょうどバースデー爆湧きを期待した。ここまでが前段です。

椎名 これ、獲れなかったパターンだろ。

竹田 ……なんで先にオチを言っちゃうんですか。

椎名 だいたいそうだよ。雑魚釣り隊の、しかもそのメンバーで行って結果が出るとは思えない。

竹田 隊の選良4人だと思ったのに落伍だったか。

椎名 ただ焚き火キャンプして帰ってきただけ?

竹田 それなんですけどね、一応、僕の誕生日キャンプだったわけですよ。

椎名 おめでとう。

竹田 4月1日の夜に富山に現地集合しましたが、ホタルイカは影も形もなかったのです。翌2日にザコと太陽はスルメイカが釣れているという情報を聞いて、地元の腕利きの遊漁船「金剛丸」に乗り込み、2人で200ハイを釣って凱旋したわけです。

椎名 すごいじゃないか。

竹田 太平洋側ではなかなか釣りの結果が出ないコンビなので、「俺たちに東京湾は狭すぎる」「やっぱり男は日本海だよ」「太平洋はチャラいよな。ハワイとかあるし」「なーにがマカダミアンナッツだ!」とか好き勝手言ってましたね。

椎名 アホや。ハワイが不当に貶められていている。

竹田 ザコが「竹田ぁ、誕生日ナイトはスルメイカの宴だ。ホタルイカなんて忘れちまえ!」と励ましてくれました。

椎名 あいつはいいやつだよな。

竹田 それが、そんなことないんです。ふたりとも、特にザコはキャリアハイともいえる大漁で興奮して、昼からビール、ハイボール、ワインをバシバシ飲んで、「一回、寝よう。竹田のパーティーは遅めの21時乾杯にしよう」とテントに入って、それっきりでした。

椎名 メシ抜きだったの?

竹田 そうですね。俺も昼寝して20時くらいに起きて健気に焚き火を起こして、待っていたんですが、誰も起きてこない。

椎名 天野は?

竹田 彼は酒も飲んでないくせに「なんか目がしょぼしょぼする」という謎の理由でずっと寝てました。23時くらいにザコが起きてきたけど「すげえ頭が痛い。二日酔いだ。ごめん竹田。誕生日おめでとう」と謝罪してすぐまた寝ました。

椎名 二日酔いじゃないよな。当日酔い。

竹田 続いて太陽が起きてきて、船上干しを焚き火で焼いてくれました。背中を丸めてモソモソとそれをかじってビール飲む誕生日ディナーでした。

椎名 いい夜じゃないか。肴はあぶったイカでいいんだよ。

竹田 椎名さんは八代亜紀が本当に好きですね。うまかったですけど。

椎名 しみじみ飲んだか?

竹田 いや、焚き火しながらまたホタルイカを待ってたら今度はお巡りさんが来て「焚き火をやめてもらえませんかね」と。

椎名 禁止されてたの?

竹田 まさか。キャンプも焚き火も禁止はされていない海岸でしたし、焚き火台を使ってやってました。水の入ったポリタンクも準備してました。でも、「近所から通報が来た」という理由でやめてくれないか、と。

椎名 嫌な世の中だなあ。

竹田 そのうち太陽も「俺ももう眠い」と寝てしまい、俺は頑張って朝方4時くらいまでホタルイカを待っていたけど、待ちイカは来ず。そんな43歳のスタートでした。

椎名 おめでとう。

竹田 でも、久しぶりにキャンプして焚き火して楽しかったです。ホタルイカは毎年、行きたいと思っています。来年は椎名さんもぜひご一緒に。

椎名 嫌だよ。

竹田 ほろほろぽつぽつ飲みましょうよ。

椎名 うーん、考えとくわ。

椎名誠: バカ旅サケ作家。五月場所は若隆景の快進撃がまた観たい。

竹田聡一郎:フリーライター。ビールと広島カープとシベリアンハスキーが好き。

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