33杯目:幡ヶ谷無灯火危機一髪

33杯目

こちら現場です
東京都渋谷区/竹田聡一郎撮影
(“チェキ” instax mini 8)

 

椎名 なんか夜に電話もらってたな?

竹田 その節は夜分に失礼しました。実は警官に捕まりまして。

椎名 お、ちょっと待って。

竹田 ビールを用意して人の話を肴にしようとするのはやめてください。

椎名 だって知り合いが警察に止められたというのは面白い話じゃないか。続けなさい。

竹田 ある意味、椎名さんのせいなんですよ。

椎名 私は潔白です。

竹田 いつだかここ(26杯目:旅のつばめもついてくる)でも紹介した、僕の愛車「シーナ・ルイガノ」に乗って遅い夜に買い物に出たんですよ。

椎名 ふんふん。

竹田 そしたらまず無灯火で止められまして。甲州街道沿いの幡ヶ谷の交番のところで。

椎名 それは留置所行きのケースだな。

竹田 無灯火で!? 展開が早すぎるでしょ。

椎名 ライトついてなかった?

竹田 なかったですね。まあ、つけなかった僕が悪いので仕方ないんですよ。

椎名 それだけ?

竹田 なんでガッカリしてるんですか! 話がこじれるのはこれからです。

椎名 よし、いいぞ。

竹田 巡査は「念のため防犯登録を確認させてください」と、なんか無線でどこかに確認してるんですね。あ、やべえ、面倒臭いことになったな、と。

椎名 なんで?

竹田 自転車、特に名義変更とかしてないので、おそらく椎名さんの名前で防犯登録をしているんです。

椎名 なるほど。

竹田 面倒なので僕は「シーナです。椎名誠で登録しているはずです」と、名前を詐称するくらいグレーな返事をしたんですよ。

椎名 人の名前を騙るんじゃないよ。

竹田 ついでに「俺はシーナだぁ」とか交番前で立ちションとかしてやれば良かった。

椎名 バカめ。それで一件落着したの?

竹田 そしたら防犯登録はその名前でないと。続けて椎名さんのご家族の名前を挙げても、雑魚釣り隊で買い物に付き合った可能性がある西澤先輩の名前を挙げても巡査は「違う」と。このあたりからだいぶ不審がられまして。

椎名 おお、いいぞいいぞ。

竹田 酒のペースをあげるのをやめてください。で、警官に「その前にあなたの名前は?」と聞かれて。でも僕、財布と携帯しか持ってなかったので、怪しまれて。「竹田聡一郎です、ほら」とカナで印字されたクレジットカードを見せて。必死だったんでしょうね、また怪しまれて。

椎名 いよいよパトカーに乗せられたか。

竹田 椎名さんは俺が捕まったほうがいいと思ってませんか?

椎名 そんなことないよ。心配でたまらない。それでそれで?

竹田 仕方ないからイチから説明しましたよ。椎名誠という人にこの春、自転車をいただいて、まだ防犯登録を更新してません、と。それで巡査が「その人に電話できる?」と言うので、冒頭のように椎名さんに電話した、というワケです。

椎名 そうだったのか。出られなくて申し訳なかった。出られたら臭い飯を食うこともなかったのにな。

竹田 捕まってないっす。でも警察っていうのは本当に嫌らしいなと思い知らされました。結局、防犯登録自体がもう古すぎるもので、誰の名前でも登録がなかったんですって。

椎名 そんなことあるのか?

竹田 あとから調べたら、東京都の防犯登録の有効期限は登録日の翌年から10年間らしく、それを過ぎると抹消されるらしいのです。

椎名 じゃあどうして警官は登録者の名前を聞いたの?

竹田 そこが嫌らしくないですか? 最初から「ああ、期限が切れているね」と教えてくれればいいのに、僕から情報を吸い出そうとするあたり。

椎名 怪しい風体だったんじゃないか。

竹田 ビーサンにジャージだったのでそれは否定しませんが、別に盗難届などが出ていたわけじゃないので、結局は無罪放免されました。

椎名 余罪が出てくれば面白かったのになあ。

竹田 人のことなんだと思っているんだ。とにかくまた同じことの繰り返しは嫌なので、まずはライトを装着しました。ただ、防犯登録には身分証のほか、自転車購入時の保証書やレシートなどの書類が必要に……。

椎名 ない。

竹田 はええ。

椎名 あるわけないだろう。あったとしても探すのが面倒だ。

竹田 ですよね。だから「自転車譲渡証明書」というのを持ってきました。ここにサインしてください。

椎名 わかったよ。でも、これサインしなかったらまた捕まるのか。

竹田 悪い顔してますよ。さっさとサインしてください!

椎名誠: 自称バカ旅サケ作家。酒についてのアンソロジーを編纂中で、最近は特に酒のことばかり考えている。

竹田聡一郎:フリーライター。広島カープのファン。まん防も明けたしむさしの「若鶏むすび」持ってズムスタでスクワットじゃけえのう。

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