25杯目:すごいやばい話

25杯目

自宅の本棚。すごーいと言う勿れ。
東京都中野区/椎名誠撮影
(“チェキ” instax mini 90 ネオクラシック)

 

竹田 あーあーあー。

椎名 どうした?。

竹田 オミクロンです。まん延防止措置がまた伸びて、行こうと思っていた取材を諦めました。

椎名 仕方ないだろ。

竹田 僕ね、腹立つのはね、名前なんですよ。

椎名 どういうこと?

竹田 オミクロンって、カッコいいでしょ。

椎名 まあ、音の感じはな。必殺技みたいだよな。

竹田 そう、ちょっと言いたくなるでしょう。だから弊害もあるんですよ。これがね、「田吾作」みたいな名前だったら嫌でしょう。

椎名 田吾作さんっていう人がいたら失礼な話だけどな。言いたいことは分かるよ。

竹田 「オミクロンもらっちゃってさ」はなんか言いやすいけど、「田吾作に罹っちゃって」はちょっと人に言えない。だからもっとかっちょ悪い名前にすればいいんですよ。フンコロガシ株とか、ヌートリア株とか。そしたらみんな嫌だから感染対策を徹底すると思うんですよ。

椎名 でも、オミクロンはギリシア語由来の流れなんだろ。デルタ株とかシータ株とか。

竹田 そこがまた腹立つところで。アルファ株、ベータ株、ガンマ株と続いて、12番目のミュー株があって、オミクロンは13番目の株なんですよ。

椎名  ふんふん。

竹田 でもね、13番目は「ν」ニューで、14番目は「ξ」クサイなんですよ。飛ばしてるんですよ。

椎名 へえ。

竹田 クサイ株を避けているんですよ。やっぱりカッコ良さに寄せている気がする。クサイ株だったら少なくとも日本では「あいつクサイだってな」「クサイだから入院」となって、みんな必死に感染防止してシャットアウトできてたかもしれないのに。これ、文書にして政府に送ろうかな。

椎名 やめておきなさい。

竹田 それだけじゃないんです。

椎名 まだあるのか。

竹田 当初からクラスターだの、オーバーシュートだのやっぱりカッコいい音なんですよね。スーパースプレッダーなんてほとんど英雄クラスの語感じゃないか!

椎名 落ち着けよ。

竹田 ブースター接種なんかは悪いことではないからいいと思うですけどね。なんか耳障りばかり気にする世の中が嫌なんです。ポリープとかネグレクトとか。

椎名 言葉を軽んじている風潮は感じるよ。

竹田 そうでしょう。椎名さんは嫌いな言葉、絶対こんなの使わねえというフレーズはありますか。

椎名 やんちゃという言葉が嫌いだ。

竹田 椎名さんがやんちゃなところはありますが。

椎名 それがいちばん嫌なんだよ。正しくはやんちゃ坊主とかやんちゃな小僧とか、子供に使う言葉なんだよな。

竹田 語源も駄々をこねる子供の「嫌じゃ」が転じた、という説があります。

椎名 だから大人とかに使うのは本来、間違っているんだよ。

竹田 他にもありますか?

椎名 神。

竹田 ああ、神対応とか、神曲とか、マジ神とかありますもんね。

椎名 そんなに簡単に神は出てこないと思うんだよな。

竹田 タピオカ飲んで「神」って言われてもねえ。

椎名 まあ、若者の口語はまだいいんだけどさ、いい年した大人が使うと恥ずかしい。「すごい」もそうだね。

竹田 なんでも使っちゃうってことですか?

椎名 暑くても寒くても広くても狭くても甘くてもしょっぱくても「すごい」って言うだろ。あれもバカっぽいよ。「すごーい」「すごいー」とかニュアンスやイントネーションはあるんだろうけど。

竹田 やばいも汎用性、と言っていいのかはわからんですが、なにかと「ヤバ」っていいますからね。味噌カツかと。

椎名 どういうこと?

竹田 いや、なんでもありません。とにかく言葉の選び方、使い方は軽視されているってことですね。ちょっと考えさせられる話です。

椎名 うん、やばいな。

竹田 やばいっすね。ではまた来週。

椎名誠: 自称バカ旅サケ作家。最近は三和酒類の新ブランドである麹を使ったスピリッツ「TUMUGI」にハマっている。

竹田聡一郎: フリーのスポーツライター。北京五輪で現地取材が叶わず、ヤケ酒気味。銀山温泉に行ってみたい。

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