24杯目:メダル獲れるんでないかい

24杯目

日本最大級のカーリングホール「軽井沢アイスパーク」
長野県軽井沢町/竹田聡一郎撮影
(“チェキ” instax mini 8)
 
 

竹田 いやー、開幕しましたねえ。

椎名 プロ野球か? ずいぶん気が早いな。

竹田 冬季五輪です。

椎名 ああ、テレビでやってるな。北京だっけ。取材に行かないでいいの?

竹田 僕のようなフリーランスにはなかなか取材パスが出ないのです。前回はチケットを買って現地で観戦応援してましたけれど、今回はウイルス禍でそれも叶いませんでした。

椎名 まあ仕方ないよなあ。

竹田 雑魚釣り隊からは玉三郎ことヨシキ、小海途良幹が行ってます。

椎名 あいつはどこのカメラマンだっけ。

竹田 スポニチですね。特にフィギュアスケートでいい仕事をして評価を受けているようです。

椎名 彼ははんなりしているけれど、ガッツあるんだよなあ。

竹田 ちょっと連絡してみたら毎日、PCR検査を受けないといけないらしく、それが鬱陶しいし、万が一陽性になったら活動停止だから怖いらしいです。

椎名 そうだろうなあ。メシは?

竹田 外に行くわけにもいかないから、ホテルのルームサービスで毎日、日式カレーだそうです。約3000円。

椎名  メシあっての国だろうに。かわいそうだ。

竹田 椎名さんはテレビ観戦しているんですか。

椎名 ほとんど観てない。去年の東京五輪でオリンピック自体に懐疑的になってしまった。やってたら見ちゃうんだけれど、それもバカっぽいしなあ。

竹田 懐疑的というと?

椎名 相変わらず「参加することにー」とか耳障りのいい言葉ばっかり言うだろ。

竹田 そうすね。最近では「アスリートファースト」とか。東京都のホームページには「スポーツを通した人間育成と世界平和を究極の目的」なんていう文言が。

椎名 どうみたって金儲けのイベントなんだから、そう言えばいいのにな。

竹田 そうですね。いっそ賞金をつけるとマイナースポーツの選手は嬉しいでしょうし。

椎名 スポーツは俺も好きだけど、きれいごとを並べる運営が好きではないんだ。

竹田 なるほど。今回は僕が長年、取材を続けているカーリングの面白さを椎名さんにプレゼンしようと思っていたのですが、難しい雰囲気ですな。

椎名 カーリングはけっこう観てるよ。好きなんだ。年末にも夜中にやってたよね?

竹田 そうですそうです。それこそ今回の五輪の最終予選ですね。ルール分かってるんですか?

椎名 いつもどうだっけな、と思いながら観てるとだんだん思い出す。面白いゲームだとは思う。静と動があんなにはっきりしているスポーツは他にあるのかな?

竹田 静と動?

椎名 緊張と緩和と言い換えてもいい。みんなで「次どうする?」って話し合った後に投げる人が石を持ったところで一度、真剣な顔になる。あの時の表情はとても魅力的だね。

竹田 いいこと言いますねぇ。久しぶりに尊敬しました。

椎名 おい。

竹田 特に前回と今回、日本代表のロコ・ソラーレはいつも楽しそうにプレーしているからその緊張と緩和が顕著なのかもしれません。

椎名 あんなに大っぴらに作戦会議をするゲームも珍しいよな。

竹田 そうですね。五輪は国際試合なので、アジアの選手が何言ってるか欧米の選手は分からなかったりしますが、日本国内の試合だと「こっちに投げると、相手がそれを狙ってきたらピンチになるよね」とか、かなりオープンに話してますからね。

椎名 相手にヒントあげちゃうんじゃないの?

竹田 そういうケースもあるでしょうね。でも、そのショットが必ず決まるとは限らないですからね。

椎名 作戦会議の時にみんなちょっと訛りがあるのが微笑ましいよなあ。北海道のチームだっけ?

竹田 はい、北見です。その中でも常呂町というオホーツク海に面した小さな町です。ホタテがうまいべや。でもあの「こっちのほうが投げやすいかい?」とか独特の道産子イントネーションで言うのですが、本人たちは標準語くらいに思っていたようです。「え、あれは普通じゃないの?」って。

椎名 岩見沢出身の太田トクヤがよく言うよな。「發は通るんでないかい?」「ドラあるしょ」とか。

竹田 麻雀ですか。例が悪いっす。さっきまでいいこと言ってたのに。

椎名 日本はメダル獲れるの?

竹田 前回、銅メダルなのでチャンスはありますね。応援してあげてください。

椎名 ビール飲みながらでいいかい?

竹田 もちろんです。むしろそれが本式ですね。本場カナダのカーリングホールはだいたいカフェやパブが併設されているんです。

椎名 日本ではできないカッコ良さだな。

竹田 試合で勝ったチームが負けたチームに奢るという文化も。

椎名 カナダ人はいいやつが多いよな。酔っ払っちゃう人はいないの?

竹田 時々、あばれる人もいるみたいですね。

椎名 日本のカーリング場では飲めないの?

竹田 今回の写真は軽井沢のカーリングホールなんですけど、軽井沢も札幌も北見も基本的には自治体の持ち物なんですよ。だから有料で酒を出すということにはハードルがあるんだと思います。北海道だとしたらサッポロビールさんがカーリングホールとビアホールを同時に建てたらいいのに。

椎名 トクヤが経営するのがいいんでないかい。

竹田 いいっすね、それ提案してみます。ちなみに軽井沢アイスパークは総工費20億円超えです。

椎名 あいつはそれくらい持っているんでないかい。

 

椎名誠: 自称バカ旅サケ作家。最近は三和酒類の新ブランドである麹を使ったスピリッツ「TUMUGI」にハマっている。

竹田聡一郎: フリーのスポーツライター。北京五輪で現地取材が叶わず、ヤケ酒気味。銀山温泉に行ってみたい。

旅する文学館 ホームへ