23杯目:さいえんすふぃくしょんのはなし
SF講演は大阪でしたねん
大阪市北区/椎名誠撮影
(“チェキ” instax mini 90 ネオクラシック)
竹田 最近、なにしてるんすか?
椎名 マンボウとやらで池林房もやってないので蟄居してウイスキー飲みながら原稿を書いている。
竹田 そういや今週、発売された集英社「すばる」の『逢海人のテーブルショウ』を読みました。過去のシーナSFとはちょっと違うテイストなんですね。
椎名 そうね、好きにやってるから、書いていて楽しかった。
竹田 昨秋、SFの講演があったじゃないですか。
椎名 大阪のやつ?
竹田 そうです。
椎名 終わったあとに飲んだ生ビールがうまかったな。
竹田 ハートランドでしたね。いやいや、そうじゃなくて講演の中身です。拝聴しましたが、いろいろ意外で。
椎名 何が?
竹田 『2001年宇宙の旅』とか『スター・ウォーズ』シリーズなど、割と巨大なSFについて考察と解説を展開されていました。楽しかったのですが、その一方で自分の作品を語らないんかい!とは思いました。
椎名 作者が自分の作品を語るのはなあ。エッセイとかならまだしも、SFはちょっとなあ。
竹田 ああ、そうか。場合によっては野暮になるかもしれませんね。その一方で、後半の「昔ばなし民話シリーズはみんなSFなのだ」は面白かったです。
椎名 「昔ばなしはぜんぶSF」。論文にして提出したい。
竹田 どこに提出するか分からんですが。椎名さんは『かぐや姫はいやな女』(新潮社)でも書いていますが、かぐや姫が発見された竹林で光っていた竹筒、あれが実はロケットだったと。
椎名 そうそう。光るのはロケット、正確にはエンジンが燃焼しているから。でもそれは俺だけじゃなく割と多くの人がそういった考察を展開しているはずだ。
竹田 そうなんですよね。なんとなく「月」というものが絡むとロマンチックな雰囲気になるけれど、紐解いたらサイエンスですもんね。
椎名 竹取物語が宇宙モノだとしたら当然、浦島太郎は……。
竹田 そうか、海底モノだ!
椎名 そうそう。鯛やヒラメの舞い踊りはみんなエイリアン。
竹田 亀が乙姫の手下だとすると、客引きという考え方もできますね。
椎名 いじめてたガキにあとで金を渡してたりしてな。
竹田 こういうのは愚考かもしれないけれど、個人的には楽しいです。
椎名 浦島太郎はタイムリープも含んでいるよな。あと他にもジャンル分けはあって、おむすびころりんは地底モノ。
竹田 おお、さすがよくばりじいさん。王道の桃太郎はどうです?
椎名 鬼=エイリアンという方程式が成立すると思うんだ。特に桃太郎は映画『エイリアン』の1、2あたりと重ねてみると興味深いよ。
竹田 一寸法師にも鬼が出てくるけど、身体のサイズが変わるなんてSFの常套手段ですもんね。
椎名 ただ、泣いた赤鬼っていう話があるんだけれど、それは例外的にSFではなく、ドキュメント的に示唆に富んだ話なんだ。まあ、だから「昔ばなしはぜんぶSF」じゃなくて「昔ばなしはほとんどSF」だ。論文、書き直しておいて。
竹田 いつの間にか僕が書く役割になっている。しかし、何かしらの教訓があると昔ばなしっていいなあ、とは思いますね。かさ地蔵なんかは「無欲で人に優しくすれば、いいことが返ってきますよ」という寓話的な部分が見えやすい。地蔵が歩くんだからしっかりSFでもありますしね。
椎名 憑依物というのもあるんだ。これは動物の生き霊などが多い。
竹田 猫や狸はよくありますね。ネズミやヘビなんかもそうですかね。
椎名 もっとも有名なのは鶴の恩返しだろうな。代償や犠牲を払うこともあるし、少し悲しい結末を迎えることもある。
竹田 上橋菜穂子さんの『鹿の王』(角川書店)なんかは現代文学だけれど、共通するものがあるかもしれません。あとは、動物じゃないけれど雪女もそうかもしれませんね。
椎名 そうそう。ああいうのは変身願望も混ざったりしているケースもあるよな。
竹田 なるほど。その隠されたメッセージやテーマみたいのを改めて見つめると面白いですね。
椎名 あんまり深読みしすぎるのもよくないかもしれないけどね。
竹田 これ続編できそうっすね。とりあえず図書館行ってきます。
椎名誠: 自称バカ旅サケ作家。最近は三和酒類の新ブランドである麹を使ったスピリッツ「TUMUGI」にハマっている。
竹田聡一郎: フリーのスポーツライター。北京五輪で現地取材が叶わず、ヤケ酒気味。銀山温泉に行ってみたい。