21杯目:大雪ですね

21杯目

哀愁はなくても雪は降るのだ
長野県野沢温泉村/竹田聡一郎撮影
(“チェキ” instax mini 8)
 
 

椎名 すげえ雪だな。どこ行ってたの?

竹田 年末に仕事で群馬長野方面に行ったので、ちょっと足を延ばして北信へ。

椎名 寒かったろ。

竹田 そうすね。でも温泉が目当てだったので気持ち良かったです。椎名さん、近年の冬は猫レベルでコタツで丸くなってますよね。

椎名 昔はよく冬にキャンプをやってたけどなあ。

竹田 そうですよね。あやしい探検隊もいやはや隊も冬キャンプ旅のほうが圧倒的に多い。

椎名 キャンプは冬に限りますよ。

竹田 御意。夏は人も虫もわらわら出てくる。

椎名 焚き火しても護摩行みたいだもんな。

竹田 雪中キャンプもかなりやってます?

椎名 高校生の時、本当に最初のキャンプは冬だったんじゃないかな。沢野(ひとし)とかと、八ヶ岳に行った。岩登りもしていたし。

竹田 今みたいに冬用のギアもなかったでしょうし、よく死にませんでしたね。

椎名  寒かったよお。ツェルトを張ったけれど、屋根とグランドシートがつながっていないから、すきま風がびょうびょう入る。

竹田 本当によくご無事で。

椎名 寒くて眠れなかった。

竹田 寝たら永遠に起きられなかったかも。作家になってからはプロと雪山でキャンプしてますね。

椎名 雪洞を掘るのが楽しかったな。

竹田 あやしい探検隊 焚火酔虎伝』(山と渓谷社)あたりに載ってますね。

椎名 雪洞って水汲みしなくていいし、ビールも雪の壁にぶっさしておけばいいから便利なんだよ。

竹田 クーラーボックスいらず。合理的だ。

椎名 内部はロウソク2-3本で壁や床や天井に相互反射して、驚くほど明るくなる。だいたい鍋をやるんだけど、向かいに座っているやつの顔も見えなくなるくらい湯気が立ち込めるんだ。そういう異世界みたいな雰囲気が面白かったなあ。

竹田 移動はスキーでしたね。椎名さんはスキー得意なんですか?

椎名 スキーっていってもレジャーのやつではないからね。山スキー。

竹田 最近ではバックカントリースキーと呼んだりもしますね。

椎名 いや、山スキーは山スキーだ。なんでも横文字にするんじゃないよ。

竹田 失礼しました。でもその山スキー、重たいんじゃないですか?

椎名 そうなんだ。運ぶのは大変だけど、ないとズボ足で進むしかないから。

竹田 ズボ足ってなんですか?

椎名 そのまんまです。ズボズボもぐって進む。

竹田 確か山岳用語に「ツボ足」という「雪を踏み込んで固めて、ツボみたいな足場を作って歩くこと」というのがあるんですが、そういう感じなのかな。ワイルドだ。

椎名 かんじきがあれば良い時もあるけど。

竹田 ああ、スノーシュ……。エト、なんでもありません。でも山スキー、しんどくないですか?

椎名 特に登りはね。でも、真っ白な雪原を音もなく進んで、朝陽が地面に反射して、あたり一面がてらてら光るんだよ。その景色をみると「きれいだなあ、頑張って良かったなあ」と思う。

竹田 おお、名も無い絶景。贅沢だ。最近は絶景もブームになっちゃって、ガイド本なんか出てますけど、そんなんには絶対に載っていない。

椎名 絶景ブームって……。他人に「ここに行け」と言われて見た景色に感動するのだろうか。

竹田 本当にそうですよね。そういう意味ではその光る雪原は椎名さんしか知らない。

椎名 問題は俺も二度と行けないということだ。どこだかわからないからねえ。

竹田 それがまた贅沢なんじゃないすか。そこでビール飲みたいなあ。さっき雪洞で鍋をやるとおっしゃってましたけれど、「焚火酔虎伝」ではチゲ鍋をやっていますね。うまそうです。

椎名 そうだっけ。辛いのはあったまるからいいよな。でも俺がいちばん好きなのはきりたんぽなんだ。

竹田 へえ、それはどうして?

椎名 きりたんぽは焼いてもいいツマミになるし、米だからちゃんと外で活動できる腹を作ってくれる。あとは鍋にした時にしょっつるという調味料がいかに優秀かというのがよく分かる。

竹田 秋田県民の喝采が聞こえてきました。でも、きりたんぽ鍋としょっつる鍋って別モノじゃないんですか? 確かきりたんぽは比内地鶏がメーンの出汁では?

椎名 そうだっけ。でも俺はしょっつるときりたんぽのコンビが好きなんだ。

竹田 出た。うまけりゃなんでもいい主義。

椎名 しょっつるでもう味が決まっているから、キャンプ2日目、3日目にはそこに追加の具材をぶち込むだけでいい。楽だし新しい出汁が出てどんどんうまくなっていく。

竹田 腹へったので今回はここまでにしましょう。しかし、鍋の話って楽しいですね。次回は鍋についてにしましょう。

 

椎名誠: 自称バカ旅サケ作家。2022年初は「まず初場所だ」と意気込む。注目の力士は大鵬の孫で元関脇貴闘力の次男である王鵬。

竹田聡一郎: フリーライター。2022年初はライフワークのひとつであるカーリング取材の執筆に集中したい。がんばれ、ロコ・ソラーレ。

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