18杯目:回顧する2021年

18杯目写真

晴れていたので講演で行った中之島をパチリ
大阪市北区/椎名誠撮影
(“チェキ” instax mini 90 ネオクラシック)

 

椎名 今年もおしまいだなあ。変な一年だったなあ。

竹田 本当ですね。まっさきに悪い出来事を挙げて申し訳ないですが、椎名さんはやっぱり新型コロナウィルス感染がいちばんのニュースですよね。

椎名 そうだね。大袈裟ではなく家族は万が一を覚悟した、とあとで聞いた。

竹田 無事で何よりです。では今回は2021年をダイジェストで振り返りましょう。

椎名 いいけど、あんまり楽しくなさそうだな。

竹田 1月からいきますが、いきなり緊急事態宣言ですからね。

椎名 そもそも今年は365日のうち、緊急事態宣言下は何日だったんだろう。

竹田 数えたくないなあ。東京はまん延防止も含めると平時、何もない日が120日しかなかったらしいです。10月からの3ヶ月以外はほとんど宣言下と言っていい状態でした。

椎名 仕方ないけれど、取材、打ち合わせ、講演なども延期、中止ばかりだったからね。

竹田 そんな中、3月には東日本大震災から10年という節目を迎えています。

椎名 それも軽々にコメントできない部分もあるよな。今でも「被災」とか「支援」といった言葉を俺たち遠くにいる人は簡単に使ってしまうかもしれないけれど、彼らだっていつまでも被災者と呼ばれたくはないだろう。

竹田 本当にそうですね。ある媒体の取材で陸前高田に行ってきました。

椎名 ひげマスのところ?

竹田 はい居酒屋「俺っ家」です。震災から10年の歩みをまとめました。でも、印象的だったのはひげマスこと熊谷浩昭さんが「10年は確かに経ったけれど、だからと言って何も変わらない。今日も明日もまたがんばっぺ、だ」と話してくれたんですよね。

椎名 彼らしいねえ。

竹田 ちょっと衝撃的でした。こっちは10年で勝手にひとくくりにして、取材して現状を伝えるお手伝いをしたつもりでしたけど、それは僕の自己満足でもあるんですよ、きっと。

椎名 たぶん正解はないからあんまり考えても仕方ないよ。それよりまた東北に遊びに行こうぜ。そういう単純なことでいいと思うんだ。

竹田 なるほど。考えすぎると空転しちゃうんですよね。そうですね。青森、八戸、盛岡、陸前高田、いわきとか、奥会津もいいですねえ。東北の地名はいつだって魅力的です。さて4月。また緊急事態宣言とか感染者とかのニュースが多いです。

椎名 もうそういうのはとばそうぜ。いいニュースはないの?

竹田 スポーツ界はありましたね。2月に大坂なおみ選手が全豪優勝、松山英樹選手が4月にマスターズ制覇、6月には笹生優花選手が全米で勝ち、大谷翔平選手は4月から本塁打を打ちまくってましたね。

椎名 俺は照ノ富士が強くて満足した。

竹田 夏には五輪もありました。

椎名 うーん、テレビでやっていれば俺も観ていたけれど、振り返ってみれば開催国の日本はバッハに体良くたかられただけ、とも思える。やはり外交をはじめとした日本のネゴシエーション能力は世界でも下のほうにあるんだろうな。

竹田 基本的には政治とスポーツは別でいいですし、どの国とは言いませんが、あの国やあの国だったら五輪開催国を外交のカードとして使っているだろうなという想像はできますよね。また、国政という意味では秋には総理大臣が岸田文雄に。衆院選では日本維新の会が躍進。

椎名 岸田首相はオミクロン株の対応で日本にしては珍しく初動が良かったけれど、よく考えれば普通のこととも言えるよなあ。

竹田 その「普通」ができない首長がなんと多かったことか。紅茶飲んで犬なでてマスク配って辞めた人いましたね。

椎名 維新の会は大阪ウケしそうだけど、自民党から派生という経緯は忘れてはいけない。「野党じゃないの? よく考えたら自民と変わらないじゃないか」というオチは嫌だなあ。

竹田 個人的には月100万円の文書交通費寄付とか、うまくメディアを使っている印象を受けました。秋から冬にかけては、小田急線や京王線での刺傷事件もありました。

椎名 無差別に人を巻き込むだとか、小さい子を手にかけるとか、そんなニュースに怒りも起こるんだけど「どうしてこうなってしまったんだろう」という事件が多く、どちらかといえば呆然とした。(ロバート・アンスン・)ハインラインというアメリカの偉大なSF作家がいて、彼の秀作のひとつに『大当たりの年』というのがあるんだ。

竹田 浅学ですいません。どんな話なんでしょう?

椎名 面白いから読んだらいいよ。これから読む人のためにもごく控え目に言うと、最初は「あれ、なんか変だな」というような小さな違和感なんだけれど、妙な事件、制動しがたい流行など、因果関係のなさそうな悪いことがどんどん重なっていく。

竹田 なるほど。面白そうだけど、体力気力が充実している時じゃないと怖そうですね。

椎名 正月とかに読むといいんじゃないか。

竹田 いいですね。椎名さんの周辺はしんどいことのほうが多かったですか? いいことは?

椎名 ありがたいことに拙著が売れた。マサイ族、漂流者、アイスランド、やぶれかぶれ、あたり。

竹田 なんかそのタイトル並べると、マサイ族が漂流してアイスランドでやぶれかぶれになる。みたいな感じですな。ちゃんと補足しておきます。『幕張少年マサイ族』(東京新聞出版)、『漂流者は何を食べていたか』(新潮社)、『アイスランド 絶景と幸福の国へ』(小学館文庫)、『われは歌えどもやぶれかぶれ』(集英社文庫)ですね。おお、どれも重版かかったんだ。おめでとうございます。

椎名 ありがとう。にっくきコロナからもだいぶ復活したので、今はけっこう書くのが楽しいんだ。

竹田 何を書いているんですか?

椎名 集英社『すばる』のSF連載の初回で70枚書いたぜ。「逢海人のテーブルショウ」というタイトルなんだ。ぜひ読んでほしい。

竹田 なんだか妖しいですが、了解しました。

椎名 あとは全国各地での取材や講演が復活しつつある。やっぱり出先で飲む生ビールは美味しい。

竹田 人生の大きな楽しみのひとつですよねえ。来年はまた切り替えて心技体すべてがいい年になるといいですね。

椎名 絶対大丈夫。

竹田 お、高津臣吾監督。

椎名 日本シリーズは面白かったね。

竹田 観てたんですね。

椎名 俺は青木(宣親)が好きだ。構えも独特でカッコいいし、職人っぽい仕事をするしなあ。

竹田 なかなか大変な一年だったけど、だからこそ、「絶対大丈夫」は力強く響いてくれますね。いい締めになりました。良いお年を。

椎名 絶対大丈夫。

 

椎名誠:自称バカ旅サケ作家。2021年は新型コロナウイルスに感染するなど散々だったが「生ビールのありがたみを感じるステキな年でもあった」と語る。

竹田聡一郎:フリーライター。2021年夏から「椎名誠 旅する文学館館長」に就任。館長就任時の公約は「忘年会は生ビール飲み放題」であるから今月は乾杯。

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