16杯目:市原いいとこ一度はおいで

16杯目

市原市市民会館
千葉県市原市/竹田聡一郎撮影
(“チェキ” instax mini 8)

 

 

竹田 先月、千葉の市原に行ったじゃないですか。第一回更級日記千年紀文学賞の表彰式。

椎名 運転してくれてありがとう。

竹田 天気も良かったし、いいドライブでしたね。

椎名 アクアライン使うと早いんだね。

竹田 そうすね。2015年に首都高中央環状線にトンネルができてさらに時間が短縮されましたし。

椎名 山手トンネルか。羽田空港なんて家を出て20分で着いちゃうもんな。いつも空港で時間を持て余して困っている。

竹田 市原にはその2本のトンネルをくぐって1時間弱で着いちゃいました。途中、市原SAで休憩しましたもんね。

椎名 ソフトクリームを食べ損ねた。

竹田 僕はサッカーしてた頃も、ライターになりたての頃も市原にはそれぞれ何度も行っていたんです。久しぶりでなんだか感慨深かったです。

椎名 サッカーのチームがあるの?

竹田 今は「ジェフユナイテッド市原・千葉」ですが、Jリーグが開幕した93年からしばらくは市原市が単独でホームタウンだったんですよ。当時はホームスタジアムがまだ市原緑地運動公園臨海競技場だったんですけど、そこでオッツェこと、フランク・オルデネビッツが暴れまわってたでしょう?

椎名 サッカーはあまり観ないからなあ。

竹田 じゃあリティも知らないすか? 嘘でしょ!? 元ドイツ代表ピエール・リトバルスキーです。あの懐の深いダブルタッチを真似て練習しましたよ。伊藤ハムのCMで革靴でドリブルした挙句の困った顔が最高だったじゃないですか。ミロのCMでも「ヤルネエー」とか言わされてる感がたまらなかったじゃないですか!

椎名 落ち着けよ。

竹田 すいません、取り乱しました。とにかく市原は割と思い出がある街なんです。アクアラインの完成が97年ですから中学生当時はまだなくて、「ずいぶん遠くまで行くなあ」と内房線に乗って思っていたんですよ。でも今日、こんなに近くなったのかと、不思議な感じでした。

椎名 基本的にはベッドタウンなの?

竹田 千葉市内に通う人は多いでしょうね。ただ、都心へも内房線と総武線で1時間程度ですから通勤圏なんですかね。工業地帯がありつつ、房総半島の中心に向かっていけば養老渓谷をはじめとして自然も豊富で、古墳群まであるらしいです。なんだか奥行きのあるハイブリッドな自治体ですね。椎名さんは千葉育ちですが、市原には縁はなかったですか?

椎名 そうだね、幕張に住んでた頃に千葉市街の映画館などに行った記憶があるけれど。

竹田 市原は距離的には近いですけれど、さらに南ですもんね。今回、行ってみてどうでした?

椎名 弁当がすごくうまかった。

竹田 ああ、確かに。オマケでくっついて行った僕のぶんまで市原市の教育委員会の方が用意してくれたので、ご馳走になりました。うまかったです。

椎名 市原の弁当屋なのかな。

竹田 「としまや」という袖ケ浦市に本店を構えるお店でした。トレードマークは緑のカバ。チャーシューが人気らしいのですが、人気に違わぬ味でした。

椎名 魚の照り焼きみたいのも美味しかったな。一杯やりたくなる。

竹田 次回、また内房方面に行く際には食べましょう、飲みましょう。肝心の文学賞はどうでした?

椎名 書くことに意欲的な人が多い印象で心強かったよ。

竹田 椎名さんの後輩にあたる、千葉市立千葉高校の生徒が優秀賞を受賞したとか。

椎名 文学部があるんだってな。

竹田 しっかりとした部誌もあるようで、出版不況、活字離れが叫ばれる昨今、頼もしいかぎりです。椎名さんが高校生の頃にあったら入部してましたか?

椎名 しないだろうな。本を読むのは好きだったけど、柔道が楽しかったし。市原に向かう途中、道路案内標識で「大多喜」という地名を見て思い出したんだけれど、大多喜高校の柔道部に負けたことがある。

竹田 強かったんですか?

椎名 うん、こっちは幕張という都会のモヤシっ子だけど、向こうは毎日、練習に打ち込んでいる強豪だった。

竹田 ……椎名さんって、世田谷生まれや幕張育ちをズル賢く使い分けますよね。

椎名 どういう意味?

竹田 ある時は「俺は千葉の海と山で育った」と語るし、違う時は「三軒茶屋の生まれでシティボーイだからな」とかエバるじゃないですか。

椎名 そうかな。でも、どっちも本当だからな。

竹田 うーん、まあこの問題はまたいつか言及させてください。高校時代、本は読んでいたんですか。

椎名 本は読んでいたと思うんだけれど、柔道部だったからね。身体を使うことのほうが好きだった。

竹田 どんな作家が好きだったんです?

椎名 阿部昭や宮原昭夫などの純文学作家と、山本周五郎を読んでいたよ。

竹田 そういえば新潮社の山本周五郎賞の第一回で、椎名さんの『菜の花物語』(集英社文庫)が最終候補作でしたね。

椎名 そう。落ちたけどね。でも不思議な縁を感じている好きな作家の一人だよ。

竹田 それらの作品がのちに作風に影響した、という部分はあるんですか?

椎名 どうなんだろう。そういうのは自分では分からないから、目黒(考二)に聞いてみてくれ。

竹田 そうします。市原のあと、幕張に寄った話をしたかったのですが、思いのほか市原編が盛り上がったので幕張編は次回にしましょう。

椎名誠:自称バカ旅サケ作家。2021年は新型コロナウイルスに感染するなど散々だったが「生ビールのありがたみを感じるステキな年でもあった」と語る。

竹田聡一郎:フリーライター。2021年夏から「椎名誠 旅する文学館館長」に就任。館長就任時の公約は「忘年会は生ビール飲み放題」であるから今月は乾杯。

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