14杯目:ビール腹のように肥大する新宿

14杯目

現在の新宿駅東南口。「日本晴れ」があったあたり。
東京都新宿区/竹田聡一郎撮影
(“チェキ” instax mini 8)

竹田 うーむ、うむむむ。

椎名 どうした? 拾い食いでもしたのか?

竹田 人のことなんだと思ってるんですか。外で酒が飲めるようになったので、新宿三丁目あたりにちょこちょこ繰り出しているんですよ。かなり賑わっていました。

椎名 そうか! ついにわしらの街にもやっと人出が戻ってきたのかあ。

竹田 そうですね。心配な部分はまだあるけれど、基本的には活気が出てきて嬉しいですね。その一方で、居抜きで見慣れない店がオープンしていたり。街が変わったとまでは思いませんけれど、やっぱり飲食店のダメージはありそうなんですよね。

椎名 俺もこの前、タクシーで新宿駅の西口から南口を抜けて三丁目まで行ったけど、確かに新しいビルやら店やら増えているよな。

竹田 そうですね。いつの間にか慣れましたけれどバスタだってまだ5年しか経っていない。

椎名 西口の小田急百貨店が閉まるんだって?

竹田 来年9月末ですね。僕は小田急線で育った神奈川っ子だったのでさみしさもひとしおです。両親が「デパート行くぞ」といえばほとんど新宿のことで、小田急か京王のレストランフロアでちょっといい釜飯とか中華とか食べて、帰りにロマンスカーに乗せてくれるんです。楽しかったなあ。

椎名 跡地は何になるの?

竹田 基本的には再開発に伴った解体で、48階建ての高層ビルが来年、着工するらしいです。竣工予定は29年。どんどん街はでっかくなりますねえ。

椎名 リニア(中央新幹線)っていつ走るんだっけ?

竹田 まず品川ー名古屋間で2027年の開業を目指しているようです。長生きしてください。

椎名 嫌だよ。あれは世紀の大失敗事業になるんじゃないかな。別に乗りたくないね。

竹田 新宿に話を戻しますが、よくトクヤさんが「西口なんて昔は何もなかった」とおっしゃってます。

椎名 うん、本当に何もなかったんだよ。ただの原っぱだったんだから。

竹田 今では考えられません。椎名さんが新宿に通っていたのはいつ頃なんですか?

椎名 サラリーマン時代の根城は銀座だったからね。当時、新宿はそれこそ小田急百貨店や京王百貨店に取材で行く程度だった。飲みに行くようになったのは本の雑誌の事務所を四谷に開いた頃かな。

竹田 四谷の居酒屋なんでしたっけ? 

椎名 ぴったん。

竹田 そうだった。『あやしい探検隊 北へ』(角川文庫)で読んで憧れたなあ。どこにあったんですか? 検索しても情報がないんですよ。

椎名 つぶれちゃったからね。しんみち通りだったよ。懐かしいな。

竹田 銀座から四谷を経由して新宿に向かうわけですね。

椎名 そうだね。事務所も移転しながらじわじわと。

竹田 そしたら新宿で飲み始めたのは1980年くらいなのかな。

椎名 池林房は何年から?

竹田 確か1978年ですね。

椎名 うん、そうか。その前後かな。その頃にトクヤに会っているんだな。

竹田 ずっと三丁目に通ってたんですか?

椎名 いや、当時は西口の居酒屋「日本晴れ」とか、おでんの「五十鈴」で沢野(ひとし)や目黒(考二)、木村(晋介)たちとよく飲んでたな。

竹田 今だとどのあたりなんですか?

椎名 なんて言うんだっけ。南口じゃなくて当時はなかった新しい改札。

竹田 東南口かな。今はFlagsという商業ビルが入っています。

椎名 おそらくそのあたりだ。場外馬券売り場があったから、独特の雰囲気だった。ホームレスがいつもうろついていてシロウトはなかなか近づけないようなところだった。

竹田 割と雑多だったんですね。今はきれいに整備されているので想像できない。WINSが名残みたいなものなのかな。

椎名 「日本晴れ」は入り口の扉の真上にテレビがあったんだ。みんな競馬中継が目当てだから店に入ると、客が全員、真剣な目でこっちを見ている。なんだか不思議で面白い光景だったなあ。そのうちスッカラカンになったオヤジたちが荒れだすんだ。

竹田 「五十鈴」はいい店だったんですか?

椎名 うまかったよ。やたらと細長い店で、店のおばさんがみんな割烹着を着ていたなあ。あとはその近所の中華料理にも行ったな。今もある店だよ。

竹田 「石の家」だ。僕も時々、行きます。

椎名 あそこのタンメンが好きだった。あとはナントカスーローみたいのをいつも頼んでいた。

竹田 ムースーロかな。今度、試してみます。僕はソース五目炒飯が好きです。

椎名 そんなのあるのか。

竹田 あそこはボリュームもあるし、酎ハイは濃ゆいですし、使い勝手がいいです。

椎名 あの界隈だと、今はもうあそこか犀門くらいしか行かないな。ライオンはあるの?

竹田 ビヤホールライオン! あります。この前、酒が解禁になったので行ってきました。

椎名 誰と?

竹田 一人で。ひとりでもいける「ビヤバーレルコース」ってのがあって、90分飲み放題で3500円なんですよ。

椎名 安いな。生ビールもいいんだろ?

竹田 むろんです。僕は黒ラベル一本槍でしたが、ハイボールやワインもOKなはずです。

椎名 90分でどれくらい飲むの?

竹田 数えてないから正確には分かりませんが、10杯は飲んだと思います。唐揚げとかパスタとか出てくるので、止まりませんわ。どうせすぐ飲んじゃうから、おかわり生ビールが到着すると同時に、次のビールを注文しておくのがコツです。僕がいちばん好きな言葉は「努力」とか「愛」とかじゃなく「飲み放題」です。

椎名 店員に嫌な顔されないの?

竹田 それがですね、「よく飲みますねぇ。どんどん飲んでください!」って。最高の店ですよ。毎日行きたいくらい。

椎名 いい店だなあ。そしてお前はバカだなあ。ぜひ出入り禁止になるまで通ってみてほしい。

竹田 一緒に行きましょうよ。

椎名 嫌だよ。

椎名誠:旅サケ作家。大相撲九州場所で応援している力士は「技があるので、観ていて楽しい相撲をとる」という宇良関。

竹田聡一郎:フリーライター。最近、広島の胡椒がガッツリ効いた汁なし坦々麺にハマっている。3辛大盛り。セロリ増し。

旅する文学館 ホームへ