13杯目:町中華は正義の味方

13杯目リアル写真

神保町の名店「源来酒家」にて
東京都千代田区/椎名誠撮影
(“チェキ” instax mini 90 ネオクラシック)

 

竹田 緊急事態宣言が明けて酒が飲めるようになりました。

椎名 何よりだね。

竹田 生ビールもうまいんですけれど、瓶ビールも好きなんですワタクシ。

椎名 中華ではいい選択だよね。俺は初めての店ではけっこう瓶ビールを頼むよ。

竹田 先日、仕事の合間に適当な中華料理屋に入ったのですがあまりに雰囲気が良く、思わずランチから大瓶をいただきました。ロクサンサンというやつですね。

椎名 俺もBSみてるよ。

竹田 お、椎名さんも『町中華で飲ろうぜ』(BS-TBS)のファンでしたか。

椎名 ファンというほどでもないけれど、やってるとやっぱり見ちゃうよな。

竹田 楽しそうですし、うまそうですもんね。

椎名 女性も出てるのがいいよな。グルメなんていう言葉にはなじまない。けれど町中華って我々にとっていちばん身近な世界だよね。

竹田 庶民の味方。

椎名 フカヒレとかアワビとか出てこないもんな。餃子からはじまって、それで店の個性や客の趣向がわかる。

竹田 そうそう。

椎名 でもあれさ、夜中にやってるよな?

竹田 毎週火曜の夜10時です。

椎名 見るとさ、ワンタンメンと瓶ビールやりたくなって困るんだよな。でも町中華の店は遅くまでやってないから悶えながら夜が更けてゆく。

竹田 椎名さんのナワバリである笹塚にもいい感じの町中華がいくつかありますよね。

椎名 うん。でも最近は近所でやたらと工事をやっているから、その関係者で昼時はいつも混んでいるよ。若い頃、俺も肉体労働していたけど、身体を使って働いたあとのチャーハンとラーメンはうまいんだよなあ。昼は昼で違った顔のある町中華はやっぱり偉いよ。

竹田 じゃあ瓶ビールではじめるとして、つまみは3品のみ。店にもよるでしょうが、椎名さんなら何をオーダーしますか?

椎名 とても難しい質問だね。3-4日くれないか。

竹田 そんな悩みますか!

椎名 生き方の問題だよ。掉尾を飾るのは大盛りワンタンメン。これは決まっている。

竹田 ワンタンメン命の生き方はブレてませんね。那須高原の「麺亭コバ」行きたいですね。

椎名 あの森の中の店か。行くたびに「なにか森の小リスか小ダヌキあたりに化かされているんじゃないのか」と思うもんな。

竹田 確かに。森の奥にずんずん入っていって不安になったころに、ちょっと洒落た一軒家みたいな感じでふと現れる。一瞬、『注文の多い料理店』(宮沢賢治)かなって。

椎名 身体にバター塗るのか。

竹田 そうそう。冗談はともかく、他のつまみもうまそうでしたしね。我々は夜に行ったことないので、腰を据えて一度、飲んでみたい。

椎名 久しぶりに行こうぜ。明日行こうぜ。

竹田 相変わらずワンタンメンの話になると反応が早いですね。そういえば山形に有名店があるじゃないですか?

椎名 川柳ね。酒田の。

竹田 あれ? そんな名前だったかな。

椎名 良きライバルに“月一族”というのがいてだな、新月、半月、満月、三日月軒……。強力だよおお!

竹田 落ち着いてください。その満月です。去年、三鷹にできたらしいですよ。

椎名 ええ!! 今すぐ行こう。タクシー呼んでくれ。

竹田 落ち着いてください。近々、偵察に行ってきますので。

椎名 頼むぞ。明日、行ってくれ。明後日行こう。

竹田 麺のこと、特にワンタンメンとなると自我を失う怖いじいちゃんですね。了解しました。ともかく今は話を戻します。町中華のメニュー3点、シメのワンタンメンの他はなんですか?

椎名 最初はやっぱり餃子、と言いたいところだが、俺はハルマキだね。

竹田 意外ですね。

椎名 春巻きは実力が出るんだよ。カラッと揚げながら中の具をジューシーかつシャキシャキにするのはしっかりした主義主張、思想と技術が必要だと俺は思っていますね。

竹田 んな大袈裟な。

椎名 じゃあ君の3品はなんだい?

竹田 僕は凡夫なので、ザーサイ、豆腐の上に乗っているやつなんか特にいいですね。あとは焼き餃子、レバニラあたりです。

椎名 レバニラもいいやつだよなあ。でも個人的には中華よりもレバーステーキでいきたいんだ。

竹田 なんすか、その魅力的な響き。

椎名 小平に住んでいた時、西武線の学園西町駅の商店街にいい精肉店があって、そこのおやじさんが「いいの入ったよ」とよく教えてくれたのがレバーだったんだ。いい意味での臭みというのかな、風味が強くてうまかったな。醤油ベースのステーキにして食うの。

竹田 レバー好きとしては聞き捨てなりませぬ。連れてってください。明日、行きましょう。

椎名 すぐ行こう今行こうなんて意地汚いぞ。少しは我慢しなさい。

竹田 どの口が言ってんすか! あれ? 椎名さんの3品目は聞いてなかった。

椎名 エートね、もやし炒め。

竹田 これまた庶民的な。もやし単品で炒めたメニューです?

椎名 別に他の野菜とか肉とか入ってもいいんだけど、俺はあのシャキシャキした感じが好きだな。あと、もやしは安いからたくさん食べられる気がして嬉しい。昔からずっと仲良くしているんだよ。

竹田 こうして椎名さんと話するのは楽しいんですけれど、酒とかメシの話が多いから……。

椎名 いつも腹へってくるよな。

竹田 レバーステーキ、食べさせてください。

椎名 ワンタンメンのあとでな。

椎名誠:旅サケ作家。大相撲九州場所で応援している力士は「技があるので、観ていて楽しい相撲をとる」という宇良関。

竹田聡一郎:フリーライター。最近、広島の胡椒がガッツリ効いた汁なし坦々麺にハマっている。3辛大盛り。セロリ増し。

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