12杯目:痛友募集中

12杯目写真
同士“痛友”になりたいかと言えばNO!だ
東京都新宿区/竹田聡一郎撮影
(“チェキ” instax mini 8)

竹田 お借りした『痛風の朝』(キンマサタカ/本の雑誌社)を読了しました。

椎名 面白かっただろ?

竹田 はい。痛風という報われない病気の悲哀と、痛風持ちの方々の苦労は伝わってきました。でも僕、痛風持ちではないですし、尿酸値も悪くないんですよ。だから、感情移入という意味では共有できない部分もありました。

椎名 やっぱり君も発作を経験するべきだよ。その本はあげるからもっと学びなさい。

竹田 作中で指す“痛友”(つうゆう)あるいは“ツゥーファー”ですね。お断りします!

椎名 お、キッパリしてるな。

竹田 意外というと失礼なのですが、割と文学的というか内省的というか、まずキンマサタカさんの綴る「朝起きたら足が腫れていた」という一文から幕開けします。これは川端康成さんへのオマージュなんでしょうか?

椎名 積もるのは雪じゃなくてプリン体だけどな。

竹田 他にもキンマサタカさんの「大人の成長痛」ですとか、大竹聡さんが医者に言われた「尿酸値のいたずら」ですとか、無駄に、というと失礼か。なんだか全体的に詩的なんですよね。

椎名 痛風はね、思索的なんだよ。結局、その人の体内で起きていることだけで基本的には本人が悪いんだから。誰にも責任を転嫁できない。自分を呪って戒めて、でも酒は飲みたいからまた飲んで発症する。それの繰り返し。

竹田 椎名さんの痛風初めは何歳の時なんですか?

椎名 俺のキャリアはおそらく長いよ。

竹田 キャリア!

椎名 当たり前ですよ。痛風かどうか定かではないけれど、若い頃から俺は柔道やってたから。

竹田 ああ、強い負荷を身体にかけるとプリン体は生まれるらしいですね。アスリートにも痛風は多いという意外な情報も書いてありました。椎名さんは喧嘩もしょっちゅうしてたし、強い負荷がかかる青年時代だったんでしょうね。

椎名 脚なんかいつも痛かったような気がするんだよ。

竹田 つまり外傷だと思っていた痛みが痛風だった?

椎名 その可能性はあるよな。思い当たることばかり。サラリーマン時代になってからははっきり覚えているよ。皮靴が痛くて履けないんだ。

竹田 うわあ、それは嫌だな。

椎名 でも今考えると「だらしないからちゃんと履け」と言っていた上司もいれば、「無理すんなよ」と声をかけてくれた人もいた。

竹田 後者は“痛友”だったのかもしれませんね。基本的には薬でごまかすしかないんですか?

椎名 そうだね、効くけれどしょせんはその場しのぎだ。

竹田 痛くなるとやっぱりその日は飲まないんですか?

椎名 場合による。だいたい朝に痛くなるんだけれど、喉元というより足元過ぎると夜には飲んでたりするな。でも俺のような玄人になると前の晩にもう足の裏がざわざわしはじめるんだ。

竹田 そんな『カイジ』みたいな。玄人という意味では、我々雑魚釣り隊には“さんぼんがわ”こと川野先輩がいます。彼も痛風の権威ですね。

椎名 あいつは西の横綱だよな。痛風は基本的に関節の痛みなんだけど、足からじわじわと這い上がってくるケースがあって、彼はもう膝まで来ているとこの前、笑っていたな。

竹田 よくぞ笑えるよな、あの人。

椎名 股関節まで侵されるのも時間の問題じゃないかな。既に動きがフランケンシュタインみたいに不気味だもんな、もう戻れないよ。中原中也の『汚れつちまつた悲しみに』は生と死の詩だけれど、彼の場合は『痛くなつちまつた関節に』だな。

竹田 可哀想。

椎名 いや、俺はむしろ尊敬しているんだ。あいつ、雑魚釣り隊に笑顔で参加してくれるだろ。でも雑魚釣り隊も新鮮な刺身だけじゃなくて、近年は内臓も美味しく食べるだろ。

竹田 そうですね。カワハギの肝を醤油に溶いたり、最近ではイサキの卵を煮つけにしたらうまかったです。

椎名 今月、発売の小泉武夫さんの『肝を喰う』(東京堂出版)のゲラを読ませてもらったんだけれど、世の中のうまいものの多くは肝や卵なんだよね。そして、そのほとんどが痛風持ちには禁忌なんだ。

竹田 この『痛風の朝』の巻頭にもカラーで魚卵やレバーが載っていて、最初は「うまそうだな」と思っていましたが、読み終わってもう一度、同じ写真を見るとまた違った味がしそうですよね。

椎名 だからそんなものを食べる会に自ら参加するんだから、さんぼんがわは勇敢な男なんだよ。

竹田 バカなだけかもしれない。でも、みんなに愛されていますよね。黒川博行さんは作品の中に痛風持ちの刑事・上坂勤という愛すべきキャラクターを登場させています。ペーソスを誘いますし、個性としても面白い。ご本人も「自分のことをそのまま書いているわけだから」とインタビューで書きやすさを認めてらっしゃいます。

椎名 人に伝染するわけではないし、基本的には他人事でいられる楽観的な病気ではあるから、そこまで深刻には受け止められない。笑い話にしやすいんだよね。友人が発症するとそれを肴にして飲みたいもんな。

竹田 椎名さんは本当に人の痛風の話が好きですもんね。

椎名 君からのいい報告も待ってるぞ。ビール飲みねえ、あん肝食いねえ!

椎名誠:旅作家。大相撲九州場所で応援している力士は「技があるので、観ていて楽しい相撲をとる」という宇良関。

竹田聡一郎:フリーライター。最近、広島の胡椒がガッツリ効いた汁なし坦々麺にハマっている。3辛大盛り。セロリ増し。

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