10杯目:マグロカツオ二股疑惑

10杯目写真
コンちゃんマグロ便
東京都千代田区/椎名誠撮影
(“チェキ” instax mini 90 ネオクラシック)

椎名 コンちゃんがマグロを届けてくれたんだ。

竹田 あ、僕もいただきました。夏からカツオ、マグロの時期になったので10回目の挑戦で釣ったようですね。28kgのキハダです。

椎名 うまかったなあ。どこで釣ったって?

竹田 相模湾ですね。小田原沖にどんぶらこです。今週は太陽とケンタローも逗子のあたりからどんぶらこらしいです。マグロはもちろん、カツオも狙えるみたいです。

椎名 カツオもいいなあ。釣れたら分けてくれよな。

竹田 ……椎名さん、どんぶらこじゃないんですよ!

椎名 俺はそんなこと言ってないよ。

竹田 そうだっけ。まあいいや。あなたには疑惑がかけられています。

椎名 穏やかじゃないな。なんだよ?

竹田 マグロカツオ二股疑惑です。これまでマグロに焦がれ、カツオに狂う人生だったでしょう。

椎名 そうだな。

竹田 行く先々で「俺はマグロがいちばん好きなんだ」とか「カツオがあれば他になにもいらないよ」と調子良く言っていたでしょう。

椎名 否定しないよ。でもな、マグロさんとカツオ君はいつも僅差なんだよ。

竹田 そんなの詭弁です。あろうことか文春文庫から『南国かつおまぐろ旅』という肉欲に溺れた紀行まで出している。本妻はどっちなんですか! ここではっきりさせましょう。

椎名 あのねえ、君だってモルツ飲んだりラガー飲んだりドライ飲んだりするだろう。

竹田 そうですね。どれもうま……あっ!

椎名 その都度、「これが最高だぁ」とか叫ぶだろ。

竹田 ぐっ、それは、まあ。

椎名 沖縄行ったらオリオンがいちばんだし、北海道行ったらクラシックがうまいだろ。

竹田 ぎゃふん。

椎名 それでいいじゃないの。なんでも順位をつければいいってもんじゃないよ。みんな良さがあってみんないいやつなんだ。曖昧な部分は残していいの。

竹田 ゆとり教育みたいなことを言い出しましたが、納得しました。ぐうの音も出ない。でも、このままだと話が終わってしまうので、「シーナの好きな肴2021秋」の暫定順位だけ教えてください。

椎名 1位はマグロ。やっぱり安定感がある。コンちゃんが大トロと中トロのいいところをサクにしてくれた。ヅケにもして朝飯でも食べたけど、やっぱりうまかったな。あと胃袋も珍味だった。

竹田 つまりマグロのガツですね。どう食うのですか?

椎名 茹でてポン酢。

竹田 日本酒に良さそうだなあ。

椎名 そういや、新宿のトールは元気か?

竹田 我らが雑魚釣り隊のキッチン担当、大八木トールですね。彼の経営する新宿三丁目のワイン酒場『銀彗富運』(シルバースプーン)も、緊急事態宣言が明けて夜の営業を再開したようです。

椎名 そうか、良かった。

竹田 近々、行きましょう。

椎名 マグロのいいところを頼む。

竹田 伝えておきます。あいつはギリシャとかインドネシアとかのそこまで高額でなくてもいいマグロを仕入れますからね。ランチで刺身定食で出しているんですけど、宣言解除で連日、混み合っているようです。

椎名 カツオもあるかな?

竹田 聞いておきます。カツオはこの秋は2位なんですね?

椎名 そうだね。秋のはじめくらいに食べた。高知の四万十川のあたりに住んでいる映画の時にお世話になった方から、毎年、この時期に送ってくれるんだ。やっぱり美味しいねえ。

竹田 3年前くらい、やはりこの時期に戻りカツオを食べに黒潮町の明神水産さんにお邪魔しているんですよね。

椎名 覚えているよ。工場見学が面白かったな。

竹田 冷凍保存されたカツオが凍結されたまま、藁焼きにされるのは迫力ありましたね。身は凍ったままなので鮮度は守られ、それは美味しい理由らしいです。

椎名 大量の藁を使って手作業で焼く職人がカッコ良かった。

竹田 あの時、道の駅「なぶら土佐佐賀」でご馳走になった肉厚の塩たたきが忘れられなくて。GoToトラベル再開したら行こうと思ってます。

椎名 いいな。高知は本当に食べ物がうまい。

竹田 マグロさんカツオ君に離されてしまっている3位はなんですか?

椎名 3位と4位もけっこう僅差なんだけど、秋から冬は牡蠣かな。

竹田 お、ちょっと意外ですが、そうかシーズンですもんね。

椎名 生牡蠣も好きだけど、カキフライが好きなんだ。タルタルソースで食べるの。あれはビールでも白ワインでもいいからな。

竹田 笹塚の十号通り商店街に使い勝手のいい惣菜屋がありますよね?

椎名 ささ家。あそこは南蛮漬けもうまいんだ。

竹田 そうそう。今は亡き発作的雑誌『ずんがずんが』の編集部があの近所にあった時、よく弁当として太巻きを買っていったものです。

椎名 面白い時期だったね。

竹田 でも、あの編集部、冷蔵庫に常にモルツと焼酎ハイボールがパンパンに冷えていて、日本中の読者からいただく日本酒もあった。だから、太巻きとか揚げ物とか格好の肴なんですよね。そのうちベンゴシやら太陽やらザコやら、みんな用もないのに来て酒盛りがはじまる。

椎名 編集部というより運動部の部室みたいだったな。

竹田 あの時期もカキフライよく食べてましたね。ちなみに牡蠣と競る次点は?

椎名 コロッケだ。熱々をホクホク食べてもいいし、冷えたのを翌日に卵とじにするのもうまい。

竹田 かつみ荘の世界ですね。コロッケ丼は代表的なシーナめしだと思います。

椎名 確かに腹減ってきたな。

竹田 ちょっと生ビールやりましょうか。

椎名 そうしよう。

椎名誠:放浪作家、写真家、映画監督、飲んだくれ。そろそろ新宿「池林房」で生ビールが飲めるだろうか。

竹田聡一郎:怪しい雑魚釣り隊副隊長、フリーライター。広島カープが弱くて悲しい。SSOK監督、お疲れ様でした。

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